「ばか。」
ロビーのソファでみんなで泣いていると、義理の両親が病院に着いた。憔悴しきった様子だった。
ごめんなさい、息子を死なせてしまいました。ごめんなさい。自責の念に押しつぶされそうになる。
彼のいる個室に案内する。
「なんで死んじゃったの。お母さんが代わってやったのに。ばかだよ。ばかだよ。XXXはばかだよ。お母さんが代わってやったのに。」
そう言いながらお母さんは彼に抱きつく。頭を一生懸命撫でてあげている。
お父さんは声にならない声で泣いている。
胸が押しつぶされそうになる。
その後、若いお医者さんが入って来た。
「死亡確認をします。今の時間で良いですね。」
時計を見ると10:00ちょうどだった。
若いお医者さんは死亡診断書に、10:00と書いた。
ストレッッチャーに乗せられたまま彼は病院の慰安室に運ばれた。無駄にだだっ広い、無機質な部屋だった。彼の身体は部屋前方の中央に置かれ、部屋の脇に椅子が並べてあった。
お母さんは彼のそばから離れずずっと頭を撫でていた。
「ばか。ばか。ばか。」
私はどこにいていいか分からなくなり、脇の椅子に座って、呆然としていた。慰安室には、私と子供たち、弟と父、そして義理の両親がいた。誰も、何も話さない。
お母さんの「ばか。私が代わってやったのに。」といいながらすすり泣く声だけが何度も何度もこだました。