何もあげられなかった、何もしてあげなかった。

仕事の電話を一通りかけ終えた。

彼の遺体は警察にあるし、何事もなかったかのようにいつものリビングが広がっている。

そこからの記憶が、ない。

起きたらデジタル時計の赤い文字は夜中の2時過ぎだった。

ひどい悪夢をみていたのだろうか。

必死に彼の姿を探すが、いない。仕事でまだ帰ってきていないだけかもしれない。よくあることだ。

妹が近くで寝ている。心配して、一緒に泊まってくれたみたいだ。

そうか、やっぱり悪夢ではないんだ。現実なんだ。

彼の死の衝撃がまた波のように襲ってくる。

悪夢じゃなかったんだ。

悪夢じゃなかったんだ。

悪夢だったらどんなに良いことか。悪夢だったら起きれば終わるのに。

怖い。このまま夜が明けるのが怖い。夜が明けたら全てが確固たる現実になってしまうような気がする。

誰かと話したい。。。

妹は疲れてるだろうしな、、、
子供達も起こせないしな、、、

急に、彼と海外に住んでいた時に仲良くなった親友に電話をかけることを思いつく。時差でちょうど良いかもしれない。

ガランとしたリビングに降りて、メッセンジャーでメッセージを送る。

"Can you talk right now?"

"Did I miss a scheduled call with you? I'm so sorry"

"No, we didn't have a scheduled call. Mizuki died this morning."

"OMG, just give me 5 min."

すぐに電話がかかってきた。

"I'm so sorry. I'm so sorry."

いつも落ち着いている彼女は今も落ち着いている。まるで泣いている幼稚園児を諭す先生のように、ゆっくりと話を聞いてくれた。

彼が生きている間に何もあげられなかった、何もしてあげられなかった、だから死んじゃったんだ、私のせいなんだ、と嘆いていると、

"You gave him so much, you really did. Even if you can't believe that right now...What you can believe is that you gave him two beautiful children right before your eyes. That's more than enough."

電話を切って、少しだけ落ち着きを取り戻した。

まだ4時前。物音で起きてきた妹に導かれ、またベッドに戻り、横になった。眠るわけでもなく、起きているわけでもなく、ただただ時間が過ぎるのをまった。








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