「よしよし。」

友人のKが彼の家の近くにある整体にゴッドハンドがいると教えてくれた。

その整体は家から電車で20分ほどのところだった。私はまた父に乗せてもらって鍼に行くのが嫌で、次の日に自力で整体に行ってみることにした。

自力といってもまだ歩くことがままならず、駅まで歩いてみたがあまりの痛みにタクシー乗り場でタクシーに乗り込んだ。

整体院について待合室で手続きを済ます。

名前を呼ばれ、施術室に入り、また中待合の椅子に座る。数人の中年の整体師の先生と、年配の先生がそれぞれ患者さんに施術していた。年配の先生は無駄な肉も筋肉もなく、姿勢は天に突き抜けるように真っ直ぐでにこやかで穏やかな顔をして、患者さんと談笑しながら施術していた。

「僕はもう80歳ですからね、ゴルフは最近めっきりへりましたよ。」と言っていて、小耳に挟んだその年齢に驚きを隠せなかった。

しばらく待っていると、その年配の先生が手招きをして自分の施術台に私を呼んだ。

施術台を指で指しながら、「そこ、座ってみて。」と言われ、必死になりながら施術台に座ってみた。

先生は私の腰をさするなり、「あぁ、これは大変だったね。」と言い、「じゃあ、うつ伏せになってね。」と言いながら私の動きを観察した。

先生は過不足のない力で私の背中から腰を手で押しながら、

「よし、よし。大丈夫だよ。」

と言った。

彼が発したその音は私の心に沁み入り、何かを守るために心の周りに張り巡らされたバリケードを崩壊させた。

訳もわからず次から次へと涙が溢れ、施術台の顔を出す穴の下の床は私の涙の溜池となった。

そうかぁ、私はただただ「よしよし。」って言ってもらいたかったんだぁ、と妙に腑に落ちた。

「よしよし、頑張ってるね。」

と言ってもらいたかっただけなんだぁ、と思うとさらに泣けてきて、ぽたぽたと落ちる涙の静けさと込み上げてくる激しい嗚咽のギャップに戸惑った。



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