容疑者
ガランとした慰安室で呆然としていると、警察の人がどこからともなく湧いて出た。
手帳を見せられ、慰安室のすぐ外に設置してある応接テーブルと椅子があるようなところに、義理の父と、警察の人と座った。いつからいたのか、妹が私の背中を隣でさすってくれている。
「当時の状況を教えてください。」
「起きたら、もう冷たくて、、、、人工呼吸をして、、救急車をよんで、、、」
あぁ、そうか。私が第一発見者なんだ。
「状況を確認するためにこのままご自宅に伺います。突然死なので、遺体は警察で預かります。」
あぁ、そうか。私は疑われているのか。
義父が、どういう手順になるんですかね、と聞き直す。
「ですから、先ほども申しましたように、このまま自宅に伺って、状況捜査をします。葬儀屋さんはどうしますか?知ってるところありますか?」
50代くらいだろうか。いかにも現場が長いといった感じの警察官。お腹には肉がつき、顔色もよくない。態度もよくない。
これが、家族を亡くした人に対する態度なんだろうか。
葬儀屋なんて知るわけないだろう。まだ死んだ事実も受け入れてないのに。
なんで、この人が生きていて、彼は死んでしまったのだろう。
でも、現時点では私は容疑者である可能性を排除できないんだ。
思考の中で「容疑者」という言葉が出てきて、急に怖くなった。
私は夢遊病者のように眠りの中で彼を手にかけたのだろうか?
毒でも盛ったのだろうか?
首でもしめたのだろうか?
ありえないことがありえたかのように思えてくる。
いやいや、毒だったら何かしら病院でわかるだろうし、首をしめていたらその痕があるだろう。
じゃあ、何か昨日の夕食での食べ合わせが悪かったのか?
彼が飲んでいる高血圧の薬に反応する食べ物があったのか?
そうだ、昨日自然食品屋さんで初めて買ったミックスナッツの中に何かよくない成分でもあったのか?
様々な思考が湧いては散る。
何かに取り憑かれたかのように、自責の念が肩に鉛のようにのしかかる。
私はなんてことをしてしまったのだろう。。。
全部自分のせいなんだ。。。全部。
私は容疑者なんだ。
人工呼吸をした口の中の死の味が口中を覆う。