連載小説「天の川を探して」(7・最終話)天を見上げて(ミムコさん企画「妄想レビューから記事」参加作品)
その時、ミヤが空に向かって大きく口を開けていることに、カズキが気が付いた。
「ミヤ、何やっとねんや。わけわからんもん、口に入れたらあかんで」
カズキが声を掛けると、ミヤは「らって、おいひいんよ。兄やんも食へてもえーよ」と、口を開けたままもごもご話した。
「──おいしい?」
不思議に思った私とカズキとチハヤは、降り続ける小さな「何か」をてのひらで受け止めようと、両手でコップの形を作る。
こつん、こつん、こつん。降り続ける小さな「何か」は、やがて五粒ほど私のてのひらに着地した。私は、カズキとチハヤと見合わせ、皆で一気にそれを口に放り入れる。
「「……あ、あまーーーい!!」」
口の中に入れると、少しごつごつした丸い物体がほろりと溶けて、穏やかな甘さが口いっぱいに広がった。そう、これは、砂糖の甘さだ。コンビニで買うお菓子の甘さでなくて、おばあちゃんがいつか作ってくれた水あめみたいな甘さ。懐かしくて、優しい味。
その時、雲の割れ目からまん丸い月が顔を出して、私たちを照らした。明るい月の光は、てのひらの中の謎の「何か」を映し出す。
「あーー!」「これかー!」
その正体を知ると、私たちは喜びの声を上げた。
空から降ってきた小さな「何か」は、なんと、金平糖だったのだ!
降り続ける金平糖の粒は、ピンクや黄緑、白や水色、色んな色をしていて、てのひらの上で上手に跳ねて踊る。
「ミヤやな。こんな願い事したんは。何てゆうたん? 怒らんからゆうてみ?」
カズキがミヤを見ると、ミヤはレインコートの裾をめいっぱい広げて金平糖を集めながら、チハヤの元へ逃げ込んだ。
「……ミヤな、もし『彦星さん』が『織姫さん』に会えたら、どうせ降るなら『雨』より甘い『あめ』がいい、ってゆうたん」
ミヤは、チハヤに隠れながら、小さな声で言う。「怒らんから」と言われて、怒られなかったことはないと、ミヤは経験で学んでいるのだ。
「ミヤ、ようやった! 確かに、ぎょうさん雨が降るより、飴ちゃんの方がええもんな!」
チハヤはミヤの頭を撫でてから、自分が集めた金平糖をミヤのレインコートに入れてやる。褒められたミヤは、「へへー」と得意気に笑うと、チハヤにもらった金平糖をすかさず口に入れた。
満月のおかげで、私はようやく皆の顔をちゃんと見ることができた。チハヤもカズキもミヤも、皆笑っている。空から降る金平糖を一緒に食べながら、私もきっと同じ笑顔でいたはずだ。
「あ! 流れ星!」
私は、空に光るものが流れるのを見つけて、思わずそう叫んだ。
皆で空を見上げると、いくつもの流れ星が空から落ちてくるのが見えた。よく見ると、それは私たちに降り注ぐ小さな金平糖に月の光が反射して、空を流れているように見えたものだった。色とりどりの金平糖が輝くと、シューっと緩い放物線を描いて私たちの元に降りてくる。それはまるで、夜空を流れる天の川から、いくつもの星々がこぼれ落ちているみたいだった。
その美しい光景を、私たちはずっと眺めていた。誰もしゃべらず、笑わず、くしゃみさえせず。ただただ静かに空を見つめているその間、私たち四人は、太古からの果てしない時間を一緒に過ごしている気がした。
*
それから、私たちはどうやって家に帰ったのか──。今となってはよく思い出せない。
私があの村にいたのは、小学五年生の夏から小学校卒業までの約一年半だけだった。
父の仕事の都合で都会に戻ってから、私は一度だけ彼らに手紙を出したけれど、住所が間違っていたのか、出した葉書は「宛先不明」で私の元に返ってきた。
もしかしたら、大人になった彼らは、あの日のことを憶えていないかもしれない。動物たちに守られていたことも、「大人になれば忘れてしまう」と言っていたから。
きっと、私だけがあの日のことを覚えている。それは、あの日、「四人で過ごしたこの日を忘れませんように」と願った私の思いを、「織姫様」と「彦星様」が聞いてくれたからだと思っている。
先月、また彼らに会いたいと何十年ぶりにY県に行ってみたけれど、どうしても村への行き方は思い出せず、両親に尋ねたくともふたりは既にこの世にいない。
「織姫様」のお人形は、今も私の手元にある。相方の「彦星様」はきっと、……「亀宮神社」にいるわね。いつかまた、ふたりが会える日は来るかしら。
──残念ながら、私には「二度目」はなさそう。そろそろ、私も「あっち側」に行く時が近いようだから。
「織姫様」のお人形は、柔らかい布にくるんで、桐の小箱に入れましょう。
明日にでも、かわいい孫娘に渡すために──。
(完)
※この小説は、こちらの「妄想レビューの返答」として書かせていただいた、ミムコさんの企画「妄想レビューから記事」の参加作品です🍀
【最後に】
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます😊
この物語は、ミムコさんの#妄想レビュー を読んで生まれたものです🕊
一人ではきっと思い浮かばなかった物語でした。
「妄想レビューから記事」の企画では、誰かと誰かの感性や思いが反応して、様々な色を生み出しています✨
素敵なきっかけを与えてくださったミムコさんに、改めて感謝を込めて🍀
ありがとうございます♡
みなとせ はる
🌟第一回は、こちらから🌌