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【エッセイ】溶け出したバターのような幸福
駅から徒歩三分ほどの場所にあるギャラリーで、今年も色鉛筆画の展覧会が開かれることになった。
普段は別々の場所で取り組む八つの色鉛筆画教室の生徒たちの作品が、広いギャラリースペースを貸し切って一堂に会するという、年に一度の特別なイベント。
六日の間、八十点あまりの作品が集う。
色鉛筆画を初めて二年目の私は、今回が二度目の参加だ。
会場準備の当日、バスの運行時刻の関係で集合時間に少し遅れて到着すると、
ギャラリー前のロビーは絵を持参した人々がわんさか集まり、賑わっていた。
(※各自作品を持参し、自分たちで展示作業をすることになっています。)
たまたま同じバスに乗り合わせたAさんと「まだ(会場に)入れないんだね」なんて話をしていると、人混みの中によく見知った顔を見つけて二人で手を振る。
「○○さーん!」
「久しぶり~!」
「あ、△△さんもいた!」
徐々に同じ教室のメンバーが集まっていくと小さな輪ができあがり、
一人ひとりと挨拶をしている間、私はふと皆さんの表情がいつもと違っていることに気がついた。
色鉛筆画教室に一緒に通う皆さんは、とても親切で温かく、
その上、優しくて、ユーモアがあって、チャーミングな方ばかり。
皆さんと会う度に、その明るさから元気をもらっている。
けれど、この日の皆さんは「特別」だったのだ。
いつにも増して瞳は輝き、声も身体の動きも溌剌としている……!
ほんのりピンク色をした頬がとても可愛らしくて、思わずキュンとしてしまうほどだった。
少しするとギャラリーの中に入れるようになり、ロビーで待っていたそれぞれの教室の人々が、ゆっくりと同じ方向に向かって歩き出す。
作品を入れた大きな鞄や袋を肩に担ぎながら、ここに集ったこの人もあの人も、やっぱりホクホクとした笑顔を交わしていた。
その様子を見ていると、まだ何も始まってはいないのに
「今日は来てよかったな」と、つい感慨にひたってしまう。
今年はこの場所でどんな作品を観られるのだろう。
どんな人達に自分達の作品を観てもらえるのだろう。
そんな期待に胸膨らませる姿が、表情が、とてもまぶしくて、見ているだけで尊い気持ちで満ちていった。
こういう時、私の脳裏に浮かぶのは、トーストの上にのせたバターのこと。
冷蔵庫から取り出したての固形バターは、ナイフで切り出すにもある程度の力が必要だけれど、
きつね色に焼けたトーストの上にのせると、頑固な塊も黄金の液体となって溶けだしていく。
純粋に楽しんでいたり、喜んでいる誰かの顔を見ていると、トーストの上のバターのように「何か美味しいもの」が私の中でもとろけて、身体に染み込んでいくようだった。
誰かに心を溶かされると、私も誰かの心を溶かしたくなる。
バターだけでなく、ついでに蜂蜜もどうぞ!と言ってしまいたくなるくらい、皆にとって幸福な時間になればいいな、と思ったりしてしまう。
色鉛筆画をひとりで描くことも楽しいけれど、
展覧会に参加したり、作品を誰かに見てもらいながら交流するということは、きっと幸せな時間を増やしていくということだ。
展覧会の開かれる六日間、
色鉛筆画の仲間だけでなく、会場に足を運んでくださるご家族やご友人、そして、地元の方々と言葉や笑顔を交わし合いながら、私たちはこの場所で心を温めてゆくのだろう。
「こんにちは。どうぞごゆっくりご覧になってください」
そう迎え入れた先には、バターが溶け出したような幸福の時間がきっと待っている。
エッセイを練習してみました。
やっぱり難しい~!
※ヘッダーイラストは、雫とコンパスさんの作品をお借りしました。
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