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短編小説『半透明な熱帯魚たち』 Ⅲ.陽花(Haruka)(3)

(3)
 
Hizuki「Harukaだけに守らせるなんて、やだ。私だって、Harukaを守りたい。しつこいアンチいるの、知ってんだから」
Seina「私も同じ気持ちだよ。いつもHarukaちゃんの声に元気をもらっているのに、何もしてあげられてないって思ってた」
 
Seina「……三人で力を合わせれば、変われるのかな」
Hizuki「変われなくたっていいんじゃん。私もHarukaを守れるんだったら、一緒にやる。それに、ここで出会った二人となら何かできる気がする」
Seina「私も同じ。Harukaちゃんも、Hizukiさんも、きっと言葉に傷つくことを知っていると思うから。……うまくできるか分からないけど、一緒に挑戦してみたい」
 
 二人から予想外の言葉が続き、目に涙が込み上げてくる。
 
Masa「お、じゃあ決まりだな! Harukaの番組でコラボなんて初めてじゃない? とにかく、楽しもうよ!」
 
 必死で涙をこらえているのを見越したように、お調子者のMasaがコメントした。
 
Riko「いいなー! 三人とも頑張れー!」
Sho「心配すんなよ。俺らも味方だからな!」
Kotaro「Haruka、おめでとう。心から応援するよ」
Nana「私もめっちゃ応援する! ファイトー!」
 
 スマートフォンの画面いっぱいに「がんばれ」の言葉が溢れる。
 Hizuki とSeinaを困らせてはいないだろうかと心配だったが、二人は「ありがとう。やってみるよ!」と皆に言葉を返してくれた。
 
 
Hizuki「なんか、熱帯魚みたい」
 その時、Hizukiのコメントが上がった。
 
「どういうことかな?」と尋ねると、少ししてHizukiはこう言った。
 
「家にいる熱帯魚、普段はそれぞれ勝手に泳いでるのに、違う種類のが同じ水槽に入ってくると群れるんだよ。小さいたちが集まって、身を守るために群れるんだ。それって逃げてるみたいで格好悪いと思ってたけど、誰かに守ってもらったり誰かの身を守ったりすることも、闘うってことなのかもしれないって思った」
 
 陽花はHizukiの言葉の意図をすぐに理解できずにいたが、やがて、彼女が言葉を封印してから誰にも相談せず、何事も一人でどうにかせねばと闘っていたのではないか、と思い至った。
 
「うん……、うん! 私たちは守り合うことで強くなれるよ。一人じゃできないことだって、力を合わせるからできることがあるよ」
 Hizukiの言葉に彼女の新たな勇気のかけらを見つけた気がして、マイクに向かって語り掛ける声に力を込める。
 
Seina「そういえば……」
 思い出したように、Seinaがコメントした。
 
Seina「前に『言葉』の語源を調べたことがあるの。色々な説があるのだけど、その中に『心』を『外』に『吐く』と書いて『心外吐ことば』というのがあって」
 
「うん」
 
Seina「こうやってコメントをしていくと、だんだん前のコメントが画面の上にあがっていくでしょう?」
 
「うん。確かに、新しいコメントは画面の下から生まれてくから、前のものからあがっていくよね」
 Seinaの言葉をゆっくりと待ちながら、スマートフォンの画面を見つめる。
 
Seina「Hizukiさんの話を聞いていたら、私たちのコメントって熱帯魚の吐く泡みたいだなって思ったの。Harukaちゃんのいるこの場所にだけ吐き出せる、私たちの『本音の言葉の泡』」
 
Seina「普段ね、誰かの言葉にうなずくばかりだから、言葉で気持ちを伝えるのは本当に苦手なのだけど、私、この場所でだけ、息ができてた。少しだけ、心を外に吐き出すことができてた。だからね、その気持ちを言葉にしたいって、HarukaちゃんとHizukiさんと一緒に作るもので感謝を伝えたいなって思ったよ」
 
「……ありがとう」
 Seinaがコメントを終えた後、何とかこの一言だけ絞り出せた。
 泣いたらリスナーを困惑させてしまう。HizukiとSeinaに、頼りないと思われてしまうかもしれない。その一心で涙を堪えていたのに……。限界を迎えた涙腺は、とうとう涙の滝口へと進化してしまった。


(つづく)

🌟最終話は、こちらから↓

🌟物語のはじまりは、こちらから↓


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みなとせ はる
いつも応援ありがとうございます🌸 いただいたサポートは、今後の活動に役立てていきます。 現在の目標は、「小説を冊子にしてネット上で小説を読む機会の少ない方々に知ってもらう機会を作る!」ということです。 ☆アイコンイラストは、秋月林檎さんの作品です。