明日のためのエール #秋ピリカ応募
林業は木を切ることだけが仕事ではなく、森や林を育てることも大切な仕事らしい。
紙の原料として育つまでに四十年以上かかる木の苗を植え、苗にちゃんと日が当たるよう間伐をしたり、十メートル以上ある木にロープ一本で登ってチェーンソーで枝を切り落としたり。
「林業のしごとを知ろう」という授業で小学校に招かれた父さんは、
普段山の中でどんなことをしているのか、皆の前で詳しく話してくれた。
「そんな高い所に登って、落ちたりしないの?」と聞くと、
「危ないからこそ、しっかり訓練してんだ。安心しろ、そう簡単に落ちたりしねぇよ」と、父さんは俺の頭を大きな手で撫でる。
「紙を作るには、たくさんの木を使います。明日の私達が困ることのないよう、林業の皆さんは手間と時間をかけてお仕事をしてくださっているのですね。どうか皆さんも森や林を、そして、身近な紙を大切にしていきましょう」
担任の小沢先生は、そう言って四十分を締めくくった。
◇
「これ、田賀さんに回してだって」
前の席の阿部が、四つ折りにした紙の切れ端を俺の机の上に放った。
──またかよ。
五年生になってから、授業中にこうやって手紙が回ってくることがある。
よほど急ぎのことなのか、というとそうではなくて、昼休みにでも話せば良いようなことをあえて手紙にしているのだ。まるで、秘密の通信手段によって、先生の知らない「子どもだけの世界」を意図的に作り出そうとしているみたいに。
──けど、なんで田賀さん?
ちらりと見ると、手紙の送り元なのだろう数名の女子が、廊下側の席でクスクスと笑っている。
なんだか嫌な予感がして、手紙とは名ばかりの、紙の切れ端をこっそり開いてみた。
そこにあったのは、何人かの文字。
簡単な話だ。今朝の全校朝礼で将棋の地区大会で優勝したことを表彰された田賀さんに、一部の女子が敵意を向けたのだ。
お前が目立つな、と。
──ふざけんな。
俺はその場で紙を握り潰した。
椅子から立ち上り、自分のノートをくるりと丸めて、即席のメガホンを作る。
思いきり息を吸い込むと、田賀さんの背中に向かって大きく声を出した。
「フレー、フレー! 田、賀、さん!」
先生とクラスメイトの視線が一気に集まる。
廊下側の女子達は「はあ?」と呆れた声を出した。
だけど、誰に何と言われようと関係ない。
父さんが軽トラで山に向かう姿を想像したら、この柔らかい真っ白な紙は、誰かの明日のために使うべきだと思ったんだ!
不思議そうに振り向く田賀さんに「次の大会の応援は任せといて」と言うと、「ありがとう」と笑顔が返ってきた。
先生に叱られながら、俺は握りしめた切れ端をこっそりポケットにしまう。
家に帰ったら、シュレッダーにかけてしまえばいい。
言葉は散り散りになって、きっといつか、新たな紙として再生されるはずだから。
了
1196字
今年も「ピリカグランプリ」に参加させていただきます(二回目)☺
テーマは「紙」。いやあ、難しかった!(笑)
けれど、そんな悩む時間も醍醐味ですね。
ピリカさん、審査や企画に関わられている皆さま、今年も素敵な創作の場をつくってくださり、ありがとうございます🌸
「ピリカグランプリ」は、多彩なクリエイターや作品と出会える機会✨
読者としても、この期間を楽しませていただきます♪
🌟秋ピリカグランプリ2024の詳細は、こちらから↓
※ヘッダーは、ソエジマケイタさんの作品をお借りしました。