【新】連載小説「天の川を探して」(1)冒険の始まり(ミムコさん企画「妄想レビューから記事」参加作品#妄想レビュー返答)
私が小学五年生の時、父と母と私の三人家族でY県の山奥にある村に引越しした。
コンビニでお菓子を買うことも、休みの日に映画に行くこともできない、田んぼと山ばかりの村だったけれど、新しい小学校は小学二年生から六年生までの八人の生徒だけで、転入生の私を優しく受け入れてくれたから、私はすぐにそこでの暮らしもそんなに嫌ではなくなった。
特に、同い年のカズキくんとチハヤちゃんとは仲良しで、カズキくんのふたつ年下の妹・ミヤちゃんを加えた私たち四人は、学校が終わればいつも一緒に遊んでいた。
*
「今年は雨ばっかりでいややなぁ。天の川も見えんし」
「ほんまやなぁ。こんなんやったら、彦星さんも織姫さんと会えんしな」
ある日、私の家に遊びに来たカズキとチハヤが、縁側に座って足をぶらぶらと揺らしながら、空を見上げて話していた。
「天の川? ああ、七夕のこと? でも、この間終わったばかりじゃない」
母が切ってくれた西瓜(すいか)をふたりに渡しながら私がそう言うと、ふたりは合わせたように首を横に振った。
「アンちゃんは、越してきたばっかりやから知らんのよ。この村には、『織姫・彦星伝説』っちゅうのがあってな、狸(たぬき)川の向こうの隣村にある『彦星様人形』が、織姫様に会えたら願いが叶うって言われとるのよ。せめて晴れてくれれば、天の川が見えて、『彦星さん』も空の織姫さんに会えんのにな、って話をしてたんよ。な、カズキ」
「え? 天の川が見えるのって、七夕の日だけじゃないの?」
「アンちゃんも、せっかく夏に越して来たのに、今年は雨続きやから、ついてなかったわ。この辺は夜真っ暗やろ。せやから、晴れてたらほんまは空一面星だらけなんやで。天の川かて、夏が終わった九月でも見えるわ」
「そうなんだぁ、全然知らなかった。天の川、見てみたいな」
まだ夕方四時だというのに、雨続きの空はどんより厚い雲で覆われている。夜には、この雲の上に天の川やたくさんの星が隠れているなんて、とても信じられなかった。
「兄ちゃん、『織姫さん』みつけた」
その時、どこかに遊びに行っていたミヤが人形を持って戻ってきた。
「ミヤ、それどこから持って来た!? 人のもん、勝手にもってきたらあかん!」
カズキは大きな声を出すと、「こつん」とミヤの頭にゲンコツをあびせた。すると、ミヤは大声を上げて泣き出してしまった。
「ミヤちゃん、いいんだよ。カズキくん、そのお人形、ミヤちゃんに遊んでもらおうと思って出しといたんだ。だから、怒らないで」
「妹がすまんな、アンちゃん」
カズキくんはすまなそうな顔をしたけれど、私は笑顔で「本当にいいんだよ」と繰り返した。
「そやけど、この人形、ほんまに『織姫さん』ちがう? 一回だけ、ばあちゃんに隣村のお祭りに連れてってもらって『彦星様人形』見たことあるけど、よう似てるわ」
ミヤに泣きながら抱きつかれたチハヤは、ミヤの手からそっと人形を取ると、それをてのひらに乗せてカズキに見せた。
「アンちゃん、この人形、どうしたん?」
カズキは少し考えた後、私に尋ねた。
「これは、おばあちゃんからもらったものなの。亡くなる前にね、『大事にしてね』って言ってた。着物着ててお雛様みたいだけど、お内裏様もいないしこの子一人だけだったから、普段はしまってるんだ。今日は、ミヤちゃんに見せてあげようと思って出しておいたの」
人形は、拳くらいの大きさで楕円形をしている。一見石のようだけれど、それは石ではなく、瀬戸物のように軽く艶があった。乳白色をしている面には柔らかい笑顔が筆で描かれていて、まるで美しい肌をしたお姫様みたいだ。顔を出すように朝顔柄の着物が巻かれ、きちんと帯も締めている。これを見て「置物」という人もいるけれど、チハヤたちが「人形」と言ってくれて、私は内心嬉しかった。
「兄ちゃんのあほ! ほんまに『織姫さん』やもん!」
ミヤの言葉を聞いたカズキがまたげんこつをしようとした時、チハヤが素早くカズキの腕を力強く握った。
「なあ、この『織姫さん』、隣村の『彦星様人形』に会わせてあげよう! 今から!」
「え? 今から? どこへ? え? え?」
「何ゆうてんのや。今日も雨やで。こんな時間から出かけても、隣村につく頃には真っ暗や」
「ミヤも行くー! ぜったい行くー! 置いていかれんの嫌やー!」
チハヤの突拍子もない提案に、私とカズキとミヤは一斉に話し出し、誰が何を言っているのかさっぱり分からなかった。
「今は小降りやし、レインコート着ていったら大丈夫や。それに、カズキ、『願い事』叶えとうないんか? 道案内なら、私に任せえや」
チハヤの力強い言葉に、カズキはぐっと息を飲みこんだ。どうやら、どうしても叶えたいことがあるらしい。
「ほな、出発やで。全員、準備や!」
(つづく)
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※今回から7回連載(予定)の「天の川を探して」は、ミムコさん企画「妄想レビューから記事」の参加作品です☺
↑こちらの「妄想レビュー」から、「こんな物語を読んだのではないかな?」と想像して小説を書いてみることにしました🍀
連載小説「星屑の森」休止しており(本当にごめんなさい。体調戻り次第再開予定です。)、連載の順序が前後してしまいますが、最後までお付き合いいただけましたら嬉しいです(✿ᴗ͈ˬᴗ͈)
今回の物語は、終わりまで書き終えていますので中断はありません!