「沈黙もまた答です」では抜けられないトンネルもある
みなと計画の橋本です。
子どもの頃(小2ぐらい)に観て深く印象に残っているアニメ映画「風の谷のナウシカ」ですが、原作の完結はそれから10年後(もっと長く感じていましたが改めて調べたらそんなでもなかった)。
自分の中の「絶対完結しないだろう連載」トップ3に長年君臨していましたが、終盤はパタパタと続編が出て堂々の完結。何度も読み返していたので、記憶に残るシーンやセリフがたくさんあります。
今回のタイトルにある「沈黙もまた答えです」もそのなかの一つ。
主人公の問いに対して相手が無言で佇んでいるところに、主人公が言い放つシーンです。
時として沈黙は言葉よりも多くを語るものですし、対話の中でも沈黙はとても大切になります。
ただ、この仕事をしていると沈黙していてもどうにもならないことも多々あります。
やや強引な導入ですが、今回はそんなお話しです。
ある若者からのご申請
※個人の特定につながる可能性があるため判断に重要となった情報であっても意図的に記載していません。
ご本人の予期しない状況に陥ったために留年をし、奨学金を打ち切られた大学院生からみなと基金へのご申請を頂きました。
ご家庭からのサポートは難しく、身体的な面からアルバイト量も増やせずに生活に窮していました。
ご本人としては、ご卒業まであと9か月、内定ももらっているのでなんとか今年卒業したいという強い想いがありました。
切れるカードが既に限られている
一時しのぎではなく中期的に生活の基盤を整える必要があり、みなと基金だけでまかなうのは現実的ではなく、制度的にも初手からかなり条件が限定されています。
そんななかまず検討したのが、社会福祉協議会の貸付制度「生活福祉資金」の一つ「教育支援資金」です。
生活福祉金 https://www.shakyo.or.jp/guide/shikin/seikatsu/index.html
借金にはなってしまいますが、他の貸付より利子も低く償還期間も長めです。これを受けられたら卒業までの暮らしを支えることは出来ます。
しかし、対象となるのは大学生までとのことで、大学院生は対象外でした。
社協のご担当者は粘り強く社協本部にもかけあって下さいましたが、どうにもなりませんでした。
では他の制度は?
その社協のご担当者から、生活保護はどうかとご提案を頂きました。
大学生が対象外なのでたぶん無理と思いつつも、社協の方で学生扱いされないのならもしかして対象になるかもと淡い期待を持って生活保護課に相談をしました。
が、やはり大学院生も大学生と見なされるとのことで対象外でした(ですよね)。
保護課のご担当者からは、フードバンクや住居支援のご提案も受けましたが、一食二食、一か月二か月の話しではないので、それらは選択肢になりません。
強力なカードがあっても出せなければ無力
その結果を、社協の担当者さんにご報告したところ、実はあの後も別の大学院生からご相談があったそうです。
しかし、社協として持てるカードではやはりどうしようもなく、そのままお帰りになられたとのことでした。
「このあとどうされるんですか?」とそのご担当者に聞かれたのですが、あなたはこの現状についてどう思われますか?と聞き返したい気持ちを抑えて、当たり障りのないお返事をしました。
あきらめたらそこで(以下略
手持ちのカードで対応できなかったら「こちらではどうにもなりません」と頭を下げてお帰り頂くことも仕方のないことなのかもしれません。
でも、「『仕方ないよね』で済ませてたまるか」と思い立って始めた活動なので、こういうときこそ意地を見せなければならないでしょう。
ということで、同じく現状に対して「仕方ないよね」で済まさない活動をされている連携団体に相談。
お話し合いの結果、シェルターに引っ越し、家賃等の固定費を低く抑えることでなんとか卒業までやりくりできないかとなりました。
しかし、ご本人から「それもそうだよね」というもっともな理由により引っ越しがそもそも厳しいとなり断念。
いよいよ八方ふさがりとなりました。
困ったねの共有から一緒に道を探す
情けないと思いつつも、これぞという打ち手がない状況を素直にお伝えすることにしましたが、ただの「ごめんね」では終わらせません。
ではこの状況でどうすれば良いのか?を考えるため、ご本人に今なにを優先したいと思うのか、そしてどのような選択肢があるのかを自ら考えられるような場をゆっくり目に設けました。
こちらからは、休学をして生活保護を受けて来春までしのぎ、就職しながら院に通う、という選択肢を極論としてご提案しました。
これをきっかけにご本人はご自分の想いを整理するように、ゆっくり時間をかけてお気持ちをお話ししていきました。
時に頭を抱えながらも結果的には、お互い半分ずつ手を伸ばすことで綱渡りながらも卒業までの道筋が見えるところまで行きました。
出口のないトンネルはない(たぶん
これが最善の手かどうかは現段階では分かりません。来週にはこのシナリオが意味のないものになっている可能性もあります。
しかし、どうなったとしても、ご本人がそうありたいと強く願うことがあるのであれば、そこに対してこちらは出来る限りのことを提案し、共にもがきながら光明を見出していくのみです。
どうしようもないからといって諦めず、出口のないトンネルはないんだ、という気持ちでご縁を頂いた若者と向き合い続けたいと、改めて思いました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?