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指揮者に必要なもの

学生指揮者に就任した大学1年生の時にこんな記事を書いた。これを書いた目的は、色々な方から意見を募り、指揮の学習の指針を得ることにあた。

大学4年生になった今、この時の自分に答える形で指揮の勉強に必要なことを簡単にまとめようと思う。

前提

前提として,これが必要だとかこれをやらなければいけないとか,学習指導要領のようにはっきりと学習のプロセスが明らかになってるわけではない。おそらく、演奏者とコミュニケーションを取り合奏を進める中で、だんだんと自分のスタイルが確立されていくものである。

ここで提示するのは、あくまで自分が得た一つの指針・スタイルにすぎない。

楽典を学ぶ

少なくとも中高の吹奏楽部では、楽典をかなり感覚的にふわっと片付けてしまって、きちんと学ぶ機会がない場合が多い気がする。

階名って何? 終止形って何? ドミナントって何?

言葉を知っていてもよくよく考えたら意外とわかっていない、ということは珍しくない。そういう曖昧な知識を曖昧なまま残さないことが重要である。

(できれば、学生指揮者に限らず吹奏楽部に所属する中高生全員がきちんと楽典を学ぶ機会があればよいなと思うのだが、なかなかそれも難しいようである。)

楽典の本は多くあるのだが、特に吹奏楽団の指揮者の場合はこれをおススメしたい。

スコアの読み方や、吹奏楽ならではの移調楽器の解説もあり、演奏的な視点も多く盛り込まれている。また、譜例として吹奏楽において重要なクラシックレパートリーが取り上げられている。ここで登場した曲は、是非フルで聴いてほしい。

最近、吹奏楽部でまともに楽譜の読み方すら学ぶ機会がないと聞く。楽譜の読み方を知らずにどうやって演奏するというのだろうか…
吹奏楽部は日本で最も多くの中学生が所属する部活となっている(部活動等の実態調査、R2、文化庁)。にもかかわらず(それゆえ、と言った方がいいのか)子どもたちに十分に指導が行き届いていないようである。演奏的な視点も含め、楽典を学ぶ機会が必要なのではないか。

指揮法を学ぶ

指揮の技法の数々が、実は教程としてある程度まとまっている。恐らく日本で一番メジャーな本は以下の「指揮法教程」である。今日、少なくとも日本で出回っている多くの指揮法の本は、おそらくこれがもとになっている。

また、指揮法教程の内容を基づきさらに初心者向けに解説された本がこちら。

その他、指揮法に関する本は多くある。

一組のスコアを読む

単に好きな曲を布教したいわけではない。これは本当に有用である。

一組とは、組曲『惑星』などでお馴染みグスターヴ・ホルストが書いた「軍楽隊のための第一組曲」のことであり、吹奏楽関係者からは「一組(いちくみ)」の愛称で親しまれている。

楽典だけを学んでも、どうしても座学の世界だけで閉じてしまいがちである。実際の曲の中でその知識をどう使うのか、スコアを見ながら学んでこそ生きた知識になるので、楽典の勉強などと並行して実際にスコアを読んで欲しいと思う。

この一組は、多くの人によって分析されてきた古典であり、解説も充実している。「スコアを読む」と言っても何をすればよいのかわからない人は多いだろう。なので、まずそのような解説や文献を参照しながらスコアを読み進めることで、スコアの読み方を学ぶのが良いと思う。また、一組はその音楽的な完成度の高さにおいても高く評価されており、吹奏楽関係者なら一度は触れておきたい至高の教材であり、名作である。

一組のアナリーゼに関しては伊藤康英先生のスコアの解説が一番詳しいと思う。

また、私も解説記事を書いたので是非参照していただきたい。

色々な曲を聴く

理論ばかり学んで頭でっかちになってはいけない。自らの感性を伸ばすことも必要である。楽器の技術を伸ばすために今できないことに取り組む必要があるように、感性を鍛える上でも、今まで聞いたことのないジャンルに手を伸ばす努力は必要だと思う。

吹奏楽のクラシックレパートリーに限って言えば、あまりセットリストが充実していなかったが、先日こんなものが発売された。何を聴けばいいのかわからない人は、この本に載ってる曲を中心に聴いてみるとよいだろう。

また、吹奏楽以外のジャンルも聴いてみるとより自分の世界が広がると思う。

一番大事なこと

なぜこのような知識や技術、感性などを高めることが必要なのか。もちろん、正しい知識を持ち、楽譜を正しく解釈するため、というのも理由の一つであるが、正しさ以上に重要なものがある。

最も重要なのは、自らの音楽を持つことだと思う。指揮者は単にタテを揃えたり、演奏をキレイに仕上げるだけの係ではない。その団体の音楽表現の責任者である。結局、自分はどういう音楽をしたいのか、そのビジョンが明確になっていないと周りの人はついてきてくれない。

指揮の技術を高めるのは、自らの音楽をより的確に演奏者に伝えるためだし、知識や感性を高めるのは、より明確に自らの目指す音楽を思い描くためである。知識や技術は、あくまでそれらを手助けするための手段でしかない。


以上、私なりに指揮者”観”を語ってみた。3年前の自分が抱えていたぼんやりした疑問にはある程度答えられたと思う。

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