疑惑【ショート小説】
ソファの溝に、きらりと光るものが見えた。
嫌な予感がした。竜次がトイレに行った隙を見計らい、それをつまみ上げる。
金色のチェーンにいくつもの星型が付いた、天の川のようなイヤリング。
はっきり言って、超ださい。こんな学生が付けるようなデザイン。
もちろん、私のものではない。
竜次とは付き合って、一年が経った。お互い仕事があるので、会うのは主に週末。今日みたく、竜次の部屋で過ごすことが多い。
恥ずかしい話、身体の触れ合いは、ほぼ、無い。
でもそれは、当初からそうだったから、あまり気にしないようにしていた。
が、他の女を連れ込んでいるとなると、話は別だ。
「竜次、今日はちょっと飲まない? コンビニ行ってくるからさ」
酒がさほど強くない竜次は、僕はいいよ、と言ったけど、私は度数の高い缶チューハイを、しこたま買い込んだ。
案の定、竜次は一缶の半分くらいで、顔を真っ赤にして寝落ち。
こんなこと、本当はしたくない。私は、竜次の部屋を、隅々まで探索する。女の影がある、はず。
どんな女か突き止めたい。クローゼットを漁ると、奥にダンボールがしまってあった。
開ける。
そこには、女物の服が詰め込まれていた。白とかピンクとかパステル調の、レースがやたらたくさん付いていて、いかにも頭の悪そうな、ふわふわした女の服。めまいがした。竜次に女がいる、という事実。どうしたらいいのだろう。
私は、缶チューハイを立て続けに飲み干し、そのまま、意識を失っていった。
*
僕にとって、マユちゃんは、理想の女性。綺麗で、センスが良くて、全部、僕のお手本。
僕が、本当は女の子になりたくて、こんなことしてるって知ったら、彼女はどんな顔をするんだろう。鏡に映るピンク色のワンピースを着る僕に、僕は問いかける。
それから僕は、マユちゃんのまねをして、首を左に傾けながら、イヤリングを付ける。
チェーンにたくさん付いた星が、きらきら反射してお気に入りだったのに、片方ないことに、その時、気が付いた。
了