
テキーラ二つで、再開【ショート小説】
「うそ、アッコじゃん」
聞き覚えのある声がした。
バーカウンターの端に、真理子はいた。
「え、すごい偶然、何年振り? 何してるの」
女は勝手に隣のハイチェアに移動してくる。
真理子だ。ちょっと歳を食って、目元に小さな皺はあるが、ほとんど変わっていない。
真理子はいきなり私の左手を取り、「まだ独身? 相変わらず太い指」と笑った。
「あんただって独身なんでしょう」
「私はバツイチだから。未婚とは大きな差が」
手を振り払うと、気まずい空気が流れた。なんせ、真理子が結婚していた相手は、私の元彼氏、小笠原くんだからだ。
小笠原くんとは、学生時代から付き合っていた。ある日、親友だった真理子との二股が発覚して、私たちは別れた。いつからそういう関係だったのかは、いまだに知らない。
その後ふたりは結婚し、数年前に離婚した、と、風の噂で聞いた。絶対許せないと思っていたのに、真理子の何事もなかったようなテンションに面食らう。
小笠原くんのことは、好きだった。
でも、真理子のことも、大好きだった。
真理子に小笠原くんを取られたのか、小笠原くんに真理子を取られたのか、同時にふたりを失くした若い私には、分からなかった。
「真理子のそういうとこまじで変わってない。こんな店で、まさかまた会うなんてね」
「まあさ、行動パターンが同じなんでしょ。金曜日の夜に、独り身が来るところなんて」
嫌味を言い合いながら、昔を思い出して、心が震えているのが分かった。
楽しかった。あの頃の私たち、本当に最強だった。怖いもの、なにひとつなかったよね。
「また、アッコと六本木で夜通し遊ぶかあ」
「いやもうそんな歳じゃないから」
「なに言ってんの。アッコと私、二人いたらいつだって最強でしょ」
当然、という顔をして真理子は笑う。
「マスター、テキーラ二つ! 私と明彦(アキヒコ)くんの分ね」
「ちょっと! 本名で呼ぶの、やめてよ」
長い夜が、はじまる予感がした。 了