見出し画像

「暗号化」と「署名」の違いとは?

「暗号化」と「署名」、どちらもセキュリティの分野では欠かせない技術ですが、目的も仕組みも異なります。しかし、日常的には混同されやすく、「秘密鍵で暗号化する」という表現がデジタル署名の説明で使われることがあります。

一見、違和感がないように思えますが、実はこの言い回しには誤解を招く要素が含まれています。この記事では、「暗号化」と「署名」の違いを整理しながら、「秘密鍵で暗号化する」という表現がなぜ適切でないのかをまとめていきます!

「暗号化」とは? 目的は「データを隠す」こと

暗号化の主な目的は データを秘匿すること です。つまり、第三者に内容を知られないようにするのが暗号化の役割です。

例えば、通信を安全にするために使われる 公開鍵暗号方式 では、次のような流れになります。

(1) 送り手は、受け取り手の「公開鍵」を使ってデータを暗号化する
(2) 受け取り手は、自分だけが持っている「秘密鍵」でデータを復号する

この仕組みにより、暗号化されたデータは受け取り手以外には読めないようになります。メールの暗号化やオンラインバンキングの通信保護など、さまざまな場面で利用されています。

「署名」とは? 目的は「改ざんされていないことを証明する」こと

一方、署名は データの真正性を証明する ための仕組みです。暗号化とは異なり、データを隠すのではなく、改ざんされていないことを証明することが目的です。

デジタル署名の流れは、次のようになります。

(1) 送り手は、メッセージ(データ)を ハッシュ化 し、そのハッシュ値を 秘密鍵で変換(署名) する
(2) 受け取り手は、送り手の 公開鍵で署名を検証 し、データが改ざんされていないことを確認する

この仕組みにより、「このデータは確かに本人が作成したものであり、途中で改ざんされていない」という保証ができます。電子契約やソフトウェアの配布など、信頼性を担保する場面で使われます。

秘密鍵での「署名」は暗号化ではなく数学的な変換

RSAのような公開鍵暗号方式では、秘密鍵と公開鍵は数学的な関係を持っています。

通常の「暗号化」は 「公開鍵で暗号化」し、「秘密鍵で復号」 しますが、デジタル署名ではその逆の処理を行います。

つまり、署名を生成するときには、秘密鍵でハッシュ値に対して 特定の数学的変換 を行っています。

例えば、RSAでは次のような処理が行われます。

  • ハッシュ値を 秘密鍵を使って冪乗と剰余演算(べき乗を取って特定の数で割った余りを求める計算) によって変換する

  • これが「署名」となり、誰でも公開鍵を使って検証できる

このように、デジタル署名で行われるのは 「暗号化」ではなく「数学的な変換」 です。そのため、「秘密鍵で暗号化する」ではなく、「秘密鍵で署名する」または「秘密鍵で数学的変換を行う」 という表現の方が実態に即しています。

「秘密鍵で暗号化する」という表現が誤解を招く理由

デジタル署名の説明で「秘密鍵で暗号化する」という表現を見かけることがあります。たとえば、次のような説明です。

メッセージをハッシュ化し、そのハッシュ値を秘密鍵で暗号化することでデジタル署名が生成される。

一見、正しそうに思えますが、実はこの表現には問題があります。

「暗号化」という言葉を使うと、「データを秘匿する」という意味に捉えられがちです。しかし、デジタル署名のプロセスでは、ハッシュ値を秘密鍵で 変換 しているだけであり、その結果を隠しているわけではありません。

むしろ、署名されたデータ(変換結果)は公開され、誰でも検証できる必要があります。つまり、「暗号化」という表現は適切ではなく、実際には「数学的な変換」が行われているのです。

したがって、適切な表現としては 「ハッシュ値を秘密鍵で署名する」または「ハッシュ値を秘密鍵で数学的に変換する」 という方が誤解を招きません。

まとめ

「暗号化」と「署名」はどちらもセキュリティに関わる技術ですが、目的がまったく異なります。

  • 暗号化 :データを秘匿する(公開鍵で暗号化し、秘密鍵で復号)

  • 署名 :データの真正性を証明する(メッセージをハッシュ化し、秘密鍵で署名し、公開鍵で検証)

  • 署名は暗号化ではなく数学的な変換(RSAでは冪乗と剰余演算などを利用)

  • 「秘密鍵で暗号化」ではなく 「秘密鍵で署名」や「秘密鍵で数学的変換」 と表現するのが適切

言葉の使い方を正しく理解することで、誤解を防ぎ、より正確にセキュリティ技術を活用できるようになります。

いいなと思ったら応援しよう!