今週のSaaSニュース! Vol.46(4/25週)
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注目!資金調達ニュース
■ コミュニケーション統合SaaS(CPaaS) MessageBird $800M調達
「欧州版Twilio」とも言われる、オランダ発のMessageBirdは、SMS、IP電話、チャットアプリなどの企業と顧客のコミュニケーション機能の統合・組込みを、開発不要・API経由で「部品」として提供する、Communication Platform as a Service(CPaaS)の大手スタートアップです。今回シリーズCのエクステンションとして、Tiger GlobalやBlackRockなどから$800Mの調達達成を発表した。70%はエクイティ、30%はデッドでの調達。まだラウンドはクローズしておらず、総額で$1B超の調達を予定してます。今回の調達資金により、米国のEメールマーケティングSaaS SparkPostを$600Mで買収したことも発表した。この買収により、欧州/アジアに加え、米国への進出を加速させる狙い。
■ 「弁護士業向けセールスフォース」 Clio $110M調達@$1.6B
カナダ発のClioは、弁護士向けに案件管理から請求まで一貫して行うことができる弁護士業特化のCRMを提供するSaaSスタートアップ。 創業者兼CEOのJack Newton氏は、2008年のリーマンショックの際に、多くの個人や中小の弁護士事務所が経営に苦労している状況を見て、Clioを創業した。現在までに全世界100ヵ国、15万人以上の弁護士に利用されている。今回のコロナショックにより、弁護士業界もデジタルでの顧客対応が急務となっており、急成長を遂げている。今回のシリーズEは、$1.6Bのバリュエーションで、T. Rowe PriceとOMARS Growth Equityから$110Mを調達した。本ラウンドでユニコーンの仲間入りを果たした。今回の調達資金で、成長の著しい欧州市場、特にイギリス/アイルランドでの拡大を目指している。
■ 開発者向けビデオ組込API SaaS Mux $105M調達@1B+
デジタルシフトの潮流の中で、よりリッチな体験を産むストリーミングなどの動画コンテンツの活用は爆発的に普及している。Muxは、開発者がAPI経由で安定かつ高品質なビデオ機能を簡単に自社プロダクトに組み込むことができる、「ビデオ版Twilio」のようなスタートアップ。2020年にMuxを利用したストリーミング動画は3,700%増加し、Muxの売上も4倍に急成長している。本シリーズDは、$1B超のバリュエーションで、新規でCoatue、既存投資家のAccelやAndreessen Horowitzも追加投資を行った。本ラウンドでMuxもユニコーンの仲間入りを果たした。
■ 「ブロックチェーン版AWS」 Alchemy $80M調達@$505M
ビットコインの再燃や、NFTブームを背景に、ブロックチェーン技術を用いたソフトウェア開発が世界的に拡大している。Alchemyは、ブロックチェーンベースのソフトウェア開発者向けにバックエンドを提供する、いわば『ブロックチェーン業界のAWS』のようなスタートアップ。2020年は、ほぼ全てのNFTプラットフォームでAlchemyが活用されており、売上は600%増と急成長している。本シリーズBは、$505Mのバリュエーションで、CoatueとAdditionをリード投資家に$80Mを調達した。
■ All-in-oneリモートワーク管理SaaS Firstbase $13M調達
コロナによるリモートワークの普及は、スタートアップから大企業に至るまで、グローバル採用・チーム運営まで飛び火しており、コロナ後も継続し続けると見られている。Firstbaseは、企業のリモートワーカー向けに、デバイスやオフィスチェアなどのハードウェアの提供、ITサポート、勤怠管理などを一括し、企業側にはコストやリスク管理支援する機能を提供する、いわば「All-in-one型リモートワーク管理SaaS」を提供するスタートアップ。元々はFintechで起業したが、リモートチーム運営の難しさを感じ、2019年後半に現在の事業にピボットした。現在、1,000社以上がウェイトリストで待ちの状況。本シリーズAは、Andreessen Horowitzリードで$13Mを調達した。
■ 法人カード/支出管理SaaS Brex $425M調達@$7.4B: 言わずと知れた法人カード/支出管理SaaSの雄 Brexが、$7.4Bのバリュエーションで、Tiger Globalリードで$425Mを調達(約1年弱前のシリーズCは$3B)。2021年第1四半期で、顧客社数は+80%増、月次の導入顧客数は5倍と急成長中。
■ 財務プランニングSaaS Vena $300M調達: ファイナンス部門向けに財務計画の複雑なモデリングや業務の自動化を支援するSaaSを提供するVenaが、大手PEファーム Vista Equity PartnersからシリーズCで、$300Mを調達。
■ 出張費用管理SaaS TravelPerk $160M調達: TravelPerkは、企業向けに出張の予約・管理を行うSaaSを提供するスタートアップ。コロナ禍で大打撃のトラベル市場だが、TravelPerkは解雇整理もなく、顧客社数も+80%増加させた。本シリーズDは、Greyhound Capitalなどから$160Mを調達。
■ クリエーターコミュニティ育成SaaS Mighty Networks $50M調達: Mighty Networksは、クリエーター向けにコミュニティ育成やクリエーター支援(メンバーシップ)などを提供するSaaSを提供している。コロナ禍で、ARRは2.5倍、顧客数も+200%増を達成している。本シリーズBは、Owl Venturesなどから$50Mを調達。
■ ワークフロー自動化ローコードSaaS n8n $12M調達: ドイツ・ベルリン発のn8nは、ローコードでSaaS連携を行い、ワークフローの自動化を行うSaaSを提供するスタートアップ。同じ分野には、ZapierやBryterなどのスタートアップが存在。本ラウンドは、Sequoia Capitalなどから$12Mを調達。
市場トレンド
■ 「2030年に向けた日本のデジタル改革」McKinseyレポート
McKinsey&Co.による、日本の2020年デジタル通信簿と、2030年に向けて日本がグローバル競争力を取り戻すための提言をまとめたレポート。日本は、世界第3位の経済大国である一方、労働生産性が-0.2%まで低下している中、デジタル化による生産性と成長に舵を切れるかどうか、重要な局面を迎えています。しかし現状の日本、デジタル競争力で世界27位、デジタル人材力で22位、スタートアップ生態系の成熟度で17位と低迷しており、かつ、デジタルサービスの浸透率はほとんどの分野で1桁%です。現状の日本を悲観するのではなく、冷静に現状を理解し、日本の明るい未来を創るためのデジタル化、その実現に向けて日本のスタートアップが果たせる役割を考える上で、参考になるレポートだと思います。
■ B2Cのような非連続な成長を遂げるB2Bユニコーンの新トレンド
今年2021年のBattery Venturesのソフトウェア産業レポート「Software 2021」で語られている通り、米国SaaSは従来のT2D3を大きく上回るような非連続な成長を遂げるSaaS企業が増えています。下図は、ARR $1B(1,000億円)に到達するまでの期間を示してますが、直近の上場銘柄であるSnowflakeやZoom、Crowdstrikeなど上場後1-2年でARR $1Bに到達するSaaSが出現していることがわかります。本記事は、「ARR $1B」を達成できるスタートアップにする上での5つのtipsについて解説しています。
「ARR $1B」達成に向けた5つのtips
1) 顧客コミュニティに注目し、ボトムアップ型成長モデルを辛抱強く作る
2) 大規模商談に向けた、営業投入のタイミングを理解する
3) 1つの製品でカテゴリートップになり、製品ラインナップを増やす
4) M&A巧者となり、非連続な成長レバーを作る
5) 人材とカルチャーに集中投資をする
成長戦略
■ 勝ち続けるテクノロジー企業にみる7つのパワー(Moat)
米シードVC NfXと、Twilio創業者兼CEO Jeff Lawson氏、スタンフォード大学 戦略研究の第一人者で『7 Powers』著者 Hamilton Helmer氏による、長く勝ち続けるテクノロジー企業が持つ7つのパワー(Moat)についての解説記事&Podcast。 勝ち続けるSaaS企業も、この7つのパワー(以下)の内、1つ、または複数持っています。しかし注意が必要な点は、冒頭で議論されている通り、7つのパワーは手段であって、目的ではないということです。本質的には、「顧客と向き合って、顧客がお金を払いたくなるようなプロダクト/サービスを産み出すこと」が唯一無二の戦略であることを強調しています。
勝ち続けるテクノロジー企業にみる7つのパワー
1) 規模の経済
2) ネットワーク効果
3) 希少リソースの保有(例. 特許、特殊技能の人材)
4) 高スイッチングコスト
5) ブランド
6) カウンターポジショニング
7) オペレーショナル・エクセレンス
EYによる「SaaSビジネスへの移行に向けた指南書」。下の図は、オンプレミス主体のIT企業とSaaSシフトしたIT企業群の売上成長率(縦軸)を比較したチャートですが、ご覧になって分かる通りSaaSシフトによって、企業の成長力は大きく改善することができます。文脈としては、オンプレミスからSaaSへの移行を狙う大企業向けです。しかし、SaaSスタートアップにとっても役に立つ内容が多いと思います。PMFからスケールフェーズの価格への考え方、組織に必要な機能(横串組織)、社内外問わずコミュニケーションの重要性など。ご参考にされてみるのも良いと思います。
マネジメント
■ Power to the product: プロダクト競争優位を築くための5つの学び
SaaSが世界で爆発的に普及し、競争が激しくなる中で、それまで一般的であった営業主導のSales-led-growthから、プロダクト主導のProduct-led-growthに少しずつシフトしてきています。その変化の中で、プロダクトの優位性=企業の優位性となり、プロダクト開発は、SaaS企業全体の事業活動とより密接につながるようになりました。本記事は、米トップVC Bessemer Venture Partnersで、プロダクトを成長のコアにする投資先5社(HashiCorp、Yotpo、Zapier、Intercom、Hyperscience)のCEOに聞いた、プロダクト優位での成長を築く上での5つの学びを解説した記事です。
プロダクト優位での成長を築く上での5つの学び
1) プロダクトKPIを企業パフォーマンス評価の先行指標として測定する
2) 自社開発の"コア機能"に集中し、"ノンコア機能"は外部APIを活用する
3) 価格設定/バンドリングを開発と一体化させ、一貫性を持たせる
4) 顧客獲得(GTM)戦略を織り込んだプロダクト開発を行う
5) 開発ロードマップは全部門が連携して作成するカルチャーを作る
米上場SaaS企業の中でも、高い成長率で注目を集めるTwilio。そのTwilio創業者兼CEO Jeff Lawson氏が創業期から現在に至るまでの成長の過程での、学びと反省をまとめた記事。一般的に言われている常識は必ずしも正しくないことを、Twilioの実体験に基づいて解説しているので、多くの示唆があると思います。
Twilioの7つの学び
1) 2つ目のプロダクト開発時期は、周りの声に騙されず、顧客の声に従え
2) コア事業への投資を怠らず、バランスを意識しろ
3) 年間予算に囚われず、期中の"実験"への投資は小さくクイックに行え
4) CEOのプランに幹部が反論しない場合、優先順位付けができていない証拠
5) 年間計画で重要なのは、数値目標ではなく、目標の優先順位付け
6) PLGであっても、顧客拡販の筋力(GTM筋)アップは前提条件
7) 成功したプロジェクトも、反省・事後分析を行え
ファイナンス
■ PatreonはいかにVCから$256Mを調達したのか?
クリエーター支援SaaSとして有名なPatreon。創業者兼CEO Jack Conte氏は、ミュージシャン兼YouTuberだった原体験から、Patreonの事業を思いつき、大学時代の友人と創業した。しかし当初は、資金調達でVCに話すたびに、「No」の連続で非常に苦労していた。本記事は、彼がこの失敗をいかに乗り越え、米トップVCであるAndreessen Horowitzなど錚々たるVCからの資金調達を成功させたtipsをまとめた記事。
PatreonのVCからの資金調達についての学び(要約)
1) VCに出資を断った理由を徹底してヒアリング。ピッチを磨き続ける
2) 常に自分らしく振舞う。VCが好みそうな起業家像に無理になろうとせずに、起業家として信じる社会の課題とそれを解決したいという熱意を伝える
3) 当初の目標とする資金調達額と希薄化に固執せず、積極的に協力して欲しい投資家がいれば、増額してでも参加してもらう
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