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ギタリストDTMerにエルゴノミクスチェアはおすすめしない理由

メインのデスクチェアにアーロンチェアリマスタードを5年間使っていましたが今回買い替えました。
アーロンチェアを買ったのはシンプルにハイエンドチェアに憧れていたのと、ド定番なので失敗しないだろうという単純な理由でした。一応丸の内ショールームに試座には行きました。
(ゼロベースでギターを使ったDTMに最適なチェアを考えた結果購入したチェアについては別に書きます。)


エルゴノミクスチェアとは何ぞや

エルゴノミクスチェア(エルゴノミックチェア)とは一義的には「人間工学に基づいた設計のチェア」のことです。メッシュシートによる体圧分散やランバーサポートも含まれますが、最大の特徴は「後傾姿勢で深く座る」というもので、このため座面が後傾しています。ここがエルゴノミクス系とそれ以外を分ける最大のポイントです。(※オカムラシルフィーやSteelcase Gestureなど後傾座でないエルゴノミクスチェアも存在します。)
それゆえエルゴノミクス系は適切な座姿勢が厳密に決まっています。つまり設計者が「こういう姿勢で座れば最大限の快適性が得られますよ」という姿勢を想定して作っています。その適切な座姿勢というのが先ほどの、深く腰掛け、座面高やランバーサポートを適切にセットし、背もたれに背中と肩をぴったりとくっ着けた後傾姿勢です。

https://www.offinet.com/furniture/chair/classic/atlas/

この状態では腰椎にかかる負荷が最小限になり長時間座っていても負担がかかりにくく、疲労が溜まりにくくなっています。実際、正しい着座姿勢でいる限り非常にリラックスでき楽で、長時間PCを見続けても疲労が少ないです。
逆にこの適切な姿勢以外で座ることは想定されていません。例えば座面であぐらをかく、正座する、浅めに腰掛ける、など。背もたれを使わずに浅く腰掛けると後傾した座面で骨盤も後傾し背中が丸まるため却って腰にダメージを与えます。

DTMやオフィスワークに向いているか

DTMでは定位置のマウスとキーボードだけを操作していれば良いわけではなく、PCを中心にMIDIキーボード、オーディオIFなどの機材操作、楽譜などのペーパーワーク、ヘッドフォンを取ったりなど意外と多種多様な動きが発生します。これは書類仕事を含むデスクワークでも同様だと思います。背もたれから背中を離して前傾しようとすると、座面が後傾しているため身体をくの字に曲げることになりやや無理な姿勢になります。
つまり本来想定されている「体を動かさずに定位置のマウスとキーボード操作に集中する」という仕事は一部のプログラマーやウェブデザイナーなどでもない限り実際には考えにくく、こうしたDTMを含む動きの多いデスクワークに後傾姿勢のエルゴノミクスチェアはそもそも向いてないんじゃないか?と思うようになりました。
むしろチェアによる体への負担を減らすには「固定された理想の姿勢」で長時間作業するよりも、頻繁に姿勢を変えて負荷を集中させないことが大事です。エルゴノミクスチェアはそれがしにくい、というか想定されていません。

究極的にはオカムラCruise&Atlasのようにデスクごと後傾させるのがもっとも負荷が少ないらしいですが、果たしてペンすら置けない斜めのデスクでできる仕事ってあるでしょうか?かなり限られると思います。

ちなみにアーロンチェアを含むほとんどのハイエンドエルゴノミクスチェアには前傾チルト機能があり、ロッキングを前方向に5度ほど傾けられます。
「これで書類仕事などをカバーしてね」という意図ですが、書類仕事のために前傾機能が必要ということは、逆に言えばそもそも後傾チェアは書類仕事に向いてないってことになりますよね。(ちなみに私はアーロンチェア購入時に少しでも安く抑えたくてこの機能をオミットしてしまいましたが大失敗でした。)
前傾姿勢でのデスクワークが多く発生することを想定するなら、後傾座のチェアよりも一般的な直立座のオフィスチェアの方が向いていると思います。

オカムラシルフィー。あまり後傾していないように見えます。

ギターが弾きづらい

正直アーロンチェア購入時は浮かれておりギターの演奏についてはほぼ考えてませんでしたが、少し考えればギター演奏に向いていないことは分かります。
実際に座ってギターを持つとまずアームレストが邪魔です。アームレストのないモデルもオーダーできますが、エルゴノミクスチェアとしての魅力が半減するためおすすめできません。腕は2本で10kg程度あるためこれを支えるアームレストがないのは辛いです。
またメッシュ座面でお尻の位置をブレさせないため、座面フレームのサイド部分(以下サイドシルと呼びます)が大きく反り上がっています。アーロンチェアは特にサイドシルが高いことで有名です。アームレストがないモデルだとしても、この部分がギターのボディにかなり干渉します。

↑ここのこと。

幸いアームレストをかなり下げられるので、アームレスト&サイドシルと干渉しない程度に浅く腰掛けてギターを弾くことはできます。私も使用中はそうしていました。しかし座面が後傾しているため背もたれがないと骨盤も後傾してしまい、ギターを抱き込む形でかなり猫背になってしまいます。これを筋力で直立に維持するのはそう長時間はできず、逆に腰痛が悪化する結果となってしまいました。
1〜2時間くらいであれば背もたれのないチェアでギターを弾いていることも可能ですが、作曲などで数時間以上断続的にギターを弾き、抱えたままPC操作や譜面書きもするとなると、ギターでも深く腰掛けて背もたれを使えるメリットは大きいです。

その他の問題

常時戦闘モードのチェアである
アーロンチェアというかハーマンミラー製品全般の傾向ですが、「仕事用のイスでリラックスすな」という信念があるようです。ハーマンミラーにはフットレストが内蔵されたモデルはありません。アーロンチェアでは純正ヘッドレストの用意もありません(元HM社員が作った3万円の専用ヘッドレストはある)。
またロッキングを固定(リクライニング)することもできず、あくまで作業中に少しでも姿勢を変えるために用意された「仕事継続のためのロッキング」であり、リラックスするための機能ではないです。
この点エルゴヒューマン等のヘッドレスト、フットレスト(オットマン)を備えたリラックスもできるエルゴノミクスチェアとは設計思想が異なります。

メタル脚は冷たい
オーダー時に金属製の脚部で頼むと、見た目はカッコいいのですが冬場めちゃくちゃ冷たいです。これ海外では靴を履いて使うからいいかもですが、日本では樹脂脚一択です。このクラスで樹脂脚だから耐久性が劣るってことはないと思います。

最低座面高がやや高い
Bサイズで座面高405mmまで下げられ、数値的にはかなり低いのですが、後傾座のため余裕で足裏が床に着くほどではありません。これも靴を履いて座る前提で設計されているためだと思います。


以上、
①DTMの多様な姿勢変化をともなうデスクワークには向かない
②ギターを弾くのに向かない

という2点から買い替えることにしました。

とはいえエルゴノミクスチェアとしては最高品質であることは間違いなく、文章を書くとか、プログラミング、ウェブデザインなどの長時間PCを操作し続けるタイプの仕事では真価を発揮します。
エルゴノミクスチェアは人間工学に基づいて座面硬さのゾーニングや豊富な調整機構で適切に負荷分散をするチェアです。なので近年多く販売されている5万円前後の形だけエルゴノミクスチェアを模した後傾座のチェアではまったく意味がありません。ハーマンミラー、エルゴヒューマン、オカムラなどのハイエンドモデルを必ず試座した上で買ってください。
個人的に今エルゴノミクスチェアを買うならアーロンチェアよりエルゴヒューマンプロ2の方が調整機構が多く、リラックス機能があり、価格も安いためおすすめです。

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