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秋の風は、まだ吹き続けている。
ふと見上げた真夜中の空は、
どこまでも真っ黒で、小さな星の光すら隠してしまってる。
夜の静寂が辺りを包み、冷たい風が秋の気配といっしょに、夜の静寂の中を走り去っていく。
築20年くらいのワンルームマンションの小さな窓辺。
薄いカーテンが風に揺れてふんわりと舞い上がり、その隙間から何かが入ってきている気がする。
その冷たい風は、少し前までの夏の風とは、何かが違う。
いつのまにか夏は過ぎ去ってしまい、秋がすぐそこまで来ているみたい。
窓の外を見下ろすと、人気のない通りが暗闇に沈んでいる。
木々の枝が風に揺れ、時折、乾いた葉が地面に落ちる音がかすかに響く。
その音は、夜の静けさを一層際立たせ、ムダにあたしの寂寥感を広げた。
少し前までは、あたしくらいの……あるいはもっと年下のカップルとか、
ムダにイキッたヤンキーの集団が、何か話しながら歩いていたのが見えたけど……
ここ最近は全くいなくなってしまった。
ああいうのも、夏の風物詩だったのかな。
ああいう騒々しさもどこか遠くへ行ってしまい、
残っているのは、シンとした、いつもの暗闇だけ。
あたしと秋の風だけが、この夜を共有している。
よくないとはわかっていても、
いつもこの時間にはカフェラテを飲んでいる。
熱いカフェラテを作ったつもりなんだけれども、
なぜかいつもすぐに冷たくなってしまう。
まるであたしみたい。
もう何杯目かもわからないカフェラテを、あたしは半ば無意識に口に運んでいる。
なんでだろう。
そもそも眠れない夜にカフェラテなんて飲んだら、余計に眠れなくなるに決まってるのに。
冷たい液体が喉を通り過ぎる瞬間、ほんの少しの現実を感じつつ、
あぁ……あたしは明日が来てほしくないんだなって、ふと感じた。
秋の風に乗って、色々なものがやってきてしまう。
過去の後悔、イヤな思い出……
とにもかくにも思い出したくもないこと全部。
しかも夜だから余計に。
ジワジワと、けれども確実に、あたしの心を蝕んでいく。
失ったもの……手に入らなかったもの……
そういうモノの断片が、なぜかよみがえってくる。
過去は過去のままで、どれだけ願っても変わることはない。
だからこそ、心に広がる空虚さは増すばかりだった。
風が一層冷たくなり、思わず薄手のブランケットを肩にかけた。
でもそこにぬくもりはない。
冷たい空気に無理やり包み込まれる。
その間、風が窓を叩き、わずかに軋む音がする。
その音が、暗闇の中で何回も、空虚に響いている。
まるで、あたしみたい。
未来への期待も、誰かと分かち合う喜びも、
あたしには何もない。
すべてが過去の霧の中に消えていった。
あたしの周りにいるのは、この冷たい秋の風だけ。
だから、どんなに寒くても窓を閉めようとは思わない。
どんなにつらくても、無情であっても、
この冷たさを感じ続けていたいから。
静かな夜の中で、秋の風が絶え間なく吹き続け、
永遠に夜が続くことを、心の底から祈っている。
明日が来ることに意味なんてものはない。
いつか夜は終わり、また新しい一日が始まってしまう。
それがどれほど無意味なことであっても、誰もその流れに抗うことはできない。
秋の風は、まだ吹き続けている。
※画像はみんなのフォトギャラリーからお借りしました。
ステキな画像をありがとうございます。