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[見習い日記④ それ行けノリさん事件簿]
固定観念にとらわれてはいけない。
ある一定の方向からだけ物事を眺めてしまうと偏った景色しか見えなくなってしまう。しかし、毎日を生きていくうえで色々なことを「判断する」のは非常に体力を使う。何事もこちらの都合で決めつけて固定観念にとらわれていた方がスムーズに事が進む場合が多いのだ。
今回はボクの仕事場のノリさん(仮名 男性 62才)について話をしたい。ノリさんは定年再雇用で現在ボクの部署に配属されている。スタイルは良く、ロマンスグレーでいわゆるイケオジに分類される。仕事のスピード感や信頼性には多少の不安はあるが、真面目で文句1つ言わず一生懸命頑張っていただいている。何より物腰柔らかく親しみやすい人間性でムードメーカーでもある。そしてボクの心を惹き付けるもう1つの理由がある。
ノリさんは「ド天然」なのである。
ボクは大好物なのだ。日々巻き起こるノリさんの「ド天然」エピソードを「それ行けノリさん事件簿」として皆さんと共有したいとそう思う次第だ。
① それ行けノリさんバーベキュー事件
「先週バーベキューしたら生焼けだったみたいで夜中にお腹痛くなったんですよぉ」
突然の報告であった。
今住んでる所はのどかな田園風景の広がる地域で、お盆の帰省シーズンになると家族揃って各家庭の庭などでバーベキューをするのがデフォルトである。お孫さん達の顔を見て飲むビールは最高だとノリさんは言っていた。それほどの大イベントにもかかわらず食中毒を疑うような大事件が起きたのだ。
「縁側でバーベキューしてて、途中で停電になりまして、暗くなって焼けてるか見えなかったんですが、まぁ大丈夫だろうと食べたのが間違いでしたねぇ。ハハッ。」とノリさん。
「ええッ!!大丈夫ですか?」との問いに
「もう孫たちは食べ終わってて涼しい部屋でアイス食べてたのでお腹痛くなったのは私だけです。」
「それならまだ良かったですね…。」
少し安堵した。何よりお孫さんに何事もなかったのは不幸中の幸いであろう。
「ノリさんだけ焼いて食べてたんだったらバーベキューの火も弱くなってますもんね。」
段々と弱くなっていく炭火を前に、明日には孫たちが帰ってしまうという寂しさを感じていたに違いない。哀愁漂うノリさんの背中が想像できた。
![](https://assets.st-note.com/img/1712334216474-MVjuYQqP27.png)
「いえいえ、炭火じゃなくてホットプレートです。」
「は?」 ボクは混乱した。
「孫たちが部屋でクーラー付けたので停電したんですかね。ハハッ。」
固定観念にとらわれてはいけない。
バーベキューと言えば炭火なんてことは誰も言っていないのである。物事は多角的に捉えなくてはいけない。こちらの都合で炭火だと決めつけ、孫が帰るだの哀愁漂うだの勝手に想像を膨らませてしまった。これはただの生焼け肉を食べたおっさんの話なのだ。ブレーカーが落ちた瞬間からそれ以上肉は焼けていかない。それでもなお食べ続けるのであればフライパン等で焼くことを奨めた。天晴れノリさん。
② それ行けノリさんボールペン事件
その日、ボクはボールペンを失くしてしまった。
作業中に落としてしまったのか?それともその辺に置いたままにしてしまったのか?いずれにせよ高価なボールペンではないので、必要以上に探すことはしなかった。仕事も終盤に差し掛かりボールペンの出番はもう無さそうだった。
「あのボールペン書きやすかったな…はて?どこで買っただろうか?」帰り道にあるホムセンだったような気がする…。しかしボールペン1本買うのにわざわざ寄るのはめんどくさいなぁ…。でも明日必要だし…。怠惰の化身と化したボクは自問自答を繰り返していた。
こういうときに限って事件は起きるのである。
「あ、資料にチェック入れるのを忘れた!」
会社組織というものはそのほんの数秒で終わるチェックでさえ、見逃してはくれないのである。
「あぁめんどくさい」 心の声が出る。
その時だ。仕事を終えたノリさんがボクの目の前にやって来たのだ。
「あぁノリさん!ボールペン貸してください!」
「はいどうぞ」
![](https://assets.st-note.com/img/1712317865260-bp1OYzhdi3.jpg?width=1200)
違う。これじゃない。会社組織とは得てして枠を外れることを嫌うのだ。チェックを入れる際は「黒もしくは青」でなければならない。そもそも赤だろうが黒だろうがチェックを入れるという行為自体は変わらないのだが、それが会社組織というものなのだ。
「あぁめんどくせーー」 心の声が出る。
怠惰の化身のボクはひとまず赤でチェックを入れ、明日改めて黒で上塗りするという選択をした。まずはチェックをしたという事実が重要なのだ。
ここでボクの悪い部分が出てしまう。
(このボールペン…ちゃんと書けるの…?)
決して信用していないわけではない。いざ書こうとしてインクが出ない…そんなことになれば怠惰の化身と化したボクはノリさんに聞こえるほどのさらに大きな心の声が出てしまうであろう。
そして恐る恐る試し書きをした結果がこれである。
↓↓↓
![](https://assets.st-note.com/img/1712320028320-ZiEukXtAdW.jpg?width=1200)
固定観念にとらわれてはいけない。
誰もボディの色がインクの色だとは言っていないのである。物事は多角的に捉えなくてはいけない。こちらの都合で勝手に赤だと決めつけて「なんで赤やねん!」などと喰い気味にツッコんではいけないのである。
「最初から中身は黒でした。」
にわかに信じがたい。しかし毅然とした態度でそう答える姿を見て、ノリさんがインクを黒に変えた説は消え失せた。ボクが信じなくて誰が信じるというのか。こうして目の前にボディは赤、インクは黒のノック式ボールペンがあるではないか。無事に黒でチェックを完了できたではないか。それが全てなのだ。何の疑念も持たずにボディは赤インクは黒のノック式ボールペンを使っているノリさんに敬意を表したい。天晴れノリさん。
少し長く喋りすぎてしまった。申し訳ない。
ノリさんの事件簿は小さいものまで入れれば1兆個あるので、今後も少しずつ皆さんと共有して成仏させていきたいと思う。
それではまた。