【寓話】プラットさんと滅んだ村
※これは、あなたの身の回りで起きているお話です。
昔むかしあるところに、とても貧しい村がありました。特にその年は凶作で、飢えて亡くなる人が後をたちませんでした。このままでは村が滅びるのは時間の問題でした。
そこに、一人の若い旅人がやってきました。名はプラットさんといったそうです。彼はとても賢く、また特別な力を持っていました。彼は頬のやつれた村人たちの前に現れて、「今から雨を降らせて見せましょう」と言いました。訝しむ村人たちでしたが、彼が空に杖をひとふりすると、たちまち空から大粒の雨が振り注ぎました。
なんと驚くべき、また、すばらしいことだろう。村人たちは旅人を歓迎し、彼は村に定住することになりました。
彼の力で、その村はもう飢餓に悩まされることはなくなりました。彼の力は雨を降らせるだけではありませんでした。彼が祈れば嵐はたちどころに静まり、妊婦の腹をさするとその子は無事生まれ、大人になるまで健やかに生きられると言われました。彼のおかげで、村はずいぶん豊かになりました。
彼ははじめ、力を貸すのに何の対価も要求しませんでした。しかし、ある日彼は腰を痛め、力を発揮できなくなってしまいました。その時、沢山の村人が彼を心配して、村中の作物、珍しい宝、若い女などを彼に捧げました。彼の腰はひと月もしないうちに治りましたが、以来、彼は力を貸すときに何かしら求めるになりました。でもそれは一度あたりではほんのささやかなものでしたし、みんな彼に感謝していましたから、それを不満に思う者などありませんでした。
一方、村人の中にも本当に疑り深い、若い男がいました。彼は、旅人が毎晩いつもどこかに出かけているのを知っていました。ある夜、彼は旅人について行ってみることにしました。旅人は、たくさんの作物や土産を持って山を下りました。そして、小さな街の路地裏に入っていきました。
そこには、真夏だというのに分厚いコートをを着た、たくさんの老人がいました。旅人は、その一人ひとりに、今しがた持ってきた作物や土産を配り始めました。それが終わった後、「それでは」と彼が一言言うと、老人たちの手がうっすらと光りだし、その光は玉となって宙を漂い、旅人へと乗り移りました。旅人は老人たちに軽く会釈をして、去っていきました。
なるほど、あいつの力はあの老人たちのものだったのだな。彼の中で謎が一つ解けましたが、あの旅人の目的はよくわかりませんでした。つけていることがバレては困るので、彼は急いで村へと帰りました。
その後も旅人は村人たちに力を貸し続けました。しかし、日が経つごとに、見返りとして求めるものがどんどん華やかなものになっていきました。また、彼の力自体も、嵐を鎮められなかったり、雨乞いしても降らなかったりで、だんだんと貧相に、また不確実なものへと変わっていきました。驚いたことにこの変化に気づかない村人が大多数でした。
そんな中、旅人に対して「要求が厳しすぎる」と申し入れた者たちがおりました。旅人はただ一言、「では、力を貸さなくてもいいのか」と返し、それ以上口をききませんでした。
そんな状態がもう何年も続きました。豊かだった村にも陰りが見えてきました。それでもまだ、旅人が来る前よりは遥かにましでした。この頃になると、さすがに多くの村人たちが、旅人の態度に不満を抱き始めました。しかし、もう彼なしでの生活は考えられなかったので、どうしようもありませんでした。
一方、旅人のことについてずっと調べ続けていたあの男は、旅人が沢山の作物を家の中に隠していて、村の外にも倉庫を持っていることを突き止めていました。最近久々に起きた飢饉のときにも彼は「雨を降らせたければ供物を捧げよ」と言ってききませんでした。男は怒りに燃えながらも、いつものように山を下りる旅人を追いました。
その時、彼は気づきました。旅人が老人たちに渡している作物や土産、その量がいつもより少ないのです。というより、少しずつ減ってきていたのです。
老人の一人が、「これはちと少なすぎるんじゃなかろうか」と口走りました。すると旅人は態度を一変させて、「黙れ老いぼれ。老い先短いお前は、黙って私に力を寄越せばいいのだ!」と叫び、もう一束を求める老人の手をはたきました。
これにはさすがに耐えかねて、男はその場に飛び出していき、「なんと無礼な。お前は我が村の同胞だけでなく、自らに力を与えた恩人までもを虐げるのか」と叫びました。
すると旅人はこう返しました。
「いくらでも喚くがいい。お前はもう、私なしでは生きられないのだから」
男は村に戻り、その日から村人たちに旅人の恐ろしさを説いて回りました。はじめは鬱陶しがられるのみでしたが、次第に話を聞いてくれる人が増えてきました。また、男に賛同しないまでも、旅人の横暴に嫌気が差す者は多くいました。
やがて、誰も男に力を借りる者はいなくなりました。多くの人は他の村に逃げ出すか、飢えて亡くなりました。そしてついに村は滅びました。
そのずっと後に、最後に村から逃げ出したあの男が噂に聞いたところによれば、旅人はあの後いろいろな村を転々としては滅ぼしていきましたが、彼に力を与えていた生き神様がみな飢えて亡くなったことで、彼もまた力を失い、路頭に迷ってしまったそうです。そして、もっと真偽不明の噂によると、彼はうわ言をつぶやきながら馬糞の山に顔から落ちて、病気になって死んでしまったそうです。
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