【読書記録】母影
「母影(おもかげ)」尾崎世界観
残念ながらクリープハイプの楽曲を聴いたことがない。どこかで耳にしたことはあるかもしれないが、具体的にどんな曲があるのかを今、頭の中に思い浮かべることができない。
だからどんな曲を彼は歌うのだろう、という興味が純粋にある。
楽曲のファンではないのだけれど、めざましテレビで彼を知って(本の紹介をされていた気がする)、芥川賞ノミネートで本作を知った。
「母影」は小学校低学年ぐらいの少女の視点で描かれる。
マッサージ店で働く母親を、カーテン越しに見つめる少女。
お客さんを「直して」いるお母さん。けれど、ある時「変」なことが起きる。
本来、一般的な、苦労を知らない子どもなら、まだまだ大人によって世界が巧妙に隠されて、世界は美しく清らかで都合よく覆い被されているべき年頃…だと私は思っている。少なくとも私はそういう風にのほほんと生きていたし、私の子どもたちをみても、いろんなことを大人によってオブラートに包まれて生きているなと思うし、そうしている。
それが、この「母影」の中で少女は否応なく世界と直面する。
いや、目の当たりにするわけではない。「影」として見るのだが、明らかに違和感には気がつく。でも少しずつ大人になりかけている高学年とは違い、まだ低学年で違和感=「変」と感じるが、その究極のところ、一体それが何なのかは言葉を持たない。
いつか彼女は「変」の正体を知り、理解するのか嫌悪するのかしていくのだろう。けれど今はまだ母親をただただ守ることに必死で、ただ懸命に生きている。
子育てをしていると、自分が大きくなっていった過程をゆっくり追体験していく気持ちになる。そして子どもを見ながら、子どもの世界が今私が見ている世界とは違うことに驚く。「あれ、私はいつそれを理解したんだっけ」と首を捻り、いつ、どうやって「それら」を教えていこうか、と悩む。
世界をもう一度そういう風に見て、文章にするってすごいことだよなあと純粋に感心し、クリープハイプの曲を聴いてみたいなあと思った、私。
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