学び合いながら育まれる防災の意識とリーダーシップに触れる/京都市立塔南高等学校 防災ボランティアリーダー
京都市立塔南高等学校は,京都市南区にある生徒数700 名規模の高校で,豊かな人間性と高い専門性を備えた優秀な教師育成を目指す「教育みらい科」と,生徒が将来の自分のなりたい姿を見据えながら,特色ある教育活動を展開している「普通科」を設置されています。同校では,地域と連携して活動する防災ボランティアリーダーの育成に取り組まれています。
今回は,同校の「防災ボランティアリーダー」の1年生のみなさんに取組への想いを伺いました。
防災ボランティアリーダーとは
防災,減災に関する知識や技術を学び,同校生徒や地域住民の方々に防災,減災の大切さを伝えることを目的に活動するボランティアグループです。現在のメンバーは,各学年で10名程度いて全員で約30名。月1回程度,放課後に,会議を行いながら,学外の活動やフィールドワークなど様々な実践や学びの場を設けています。課外活動ですが,部活動という位置付けではないため,メンバーのなかには,サッカー部などの部活動と両立している生徒もいます。
活動に参加しようと思ったきっかけは?
● 私は,もともとボランティアに興味があって,色々やってみようと思ったなかの1つに防災ボランティアリーダーの活動があったので参加しました。
● 地震や大雨の災害が実際に起こったときに,自分がどうやったら家族や友達の命を守れるだろうと考えたときに,あまり情報を知らなかったので,防災ボランティアリーダーに入ったら知識を学べるし理解もできるのではないかと思って参加しました。
● 部活動以外にボランティアに関わる機会があり面白そうだと思ったことと,自身が中学1年生のときに地震があり家にヒビが入った経験があったので,色々と知っておかないと危ないと危機感を持ち,自分でできることがあればと思って参加しました。
それぞれのお話を伺ってみると,入学当時から自身の災害への危機意識や知識を学びたいと思っていたことや,自身の経験から身の回りの家族や友人ためにできることを増やしたいという視点があり,当事者意識が高いことを感じました。
防災を通したさまざまな交流や地域防災への協力
宮城県多賀城高等学校とオンラインで交流
宮城県の多賀城高校は「災害科学科」という防災系の専門学科がある学校で,オンラインで互いの防災に関する学びを共有しました。
自身も実際に東日本大震災を経験した多賀城高校の生徒が,周囲の大人たちから学んだことは,災害発生時,「記録に残すこと」が大切であること。災害が起こった当初は,その光景を撮影することへの後ろめたさを感じるけれど,将来への伝承や防災の強化の視点に立ったときに記録が役立つことなどを知りました。
「人と防災未来センター」の見学
神戸の「人と防災未来センター」の見学と周辺地域のフィールドワークでは,地震破壊の凄まじさを映像と音で再現したシアターを体験したときの恐怖感が印象的でした。映像だけでも恐ろしかったのに,実際に起こったとしたらその恐怖は計り知れないと感じました。
また,震災直後のまち並みを再現したジオラマ模型では,倒壊したビルや道路,破壊されたマンホールのふたなどを間近で見て,テレビや新聞で見たものとは違う衝撃を受けました。
神戸のまちでのフィールドワークでは,被災の経験を活かして工夫されたマンションを見学し,震災のことを忘れないでおこうという意識がまちの中にあることを知りました。
龍谷大学の石原ゼミとの交流
龍谷大学で防災について研究している石原凌河准教授のゼミと交流しました。その中で,「災害が起こったときに持っていくものを3つ選ぶ」というゲームを行い,ゼミで学んでいる大学生たちが自分たちと全然違うものを選んでいたことが印象に残っています。大学生たちが選んだ「新聞紙」や「飴玉」にはしっかりと理由がありました。新聞紙は保温性が高いため毛布の代用にもなるということ,飴玉は糖分が不足すると頭が回らなくなるため重要であったり,子どもがいる場面では緊張緩和の役に立つことなどを教えてもらいました。
京都大学宇治川オープンラボラトリーの訪問
京都大学防災研究所の宇治川オープンラボラトリーの訪問では,「流水階段歩行」や「浸水ドアの開閉」を体験し,体感として水害の恐ろしさを学ぶことができました。特に,浸水していくにつれてドアが重くなる体験をして,地下や車の中にいる時などは,早めに避難をすることが重要なのだと感じました。
京都市立祥栄小学校での仮設トイレ設営
塔南高校の周辺では,すぐ近くの祥栄小学校が避難所に指定されており,同小学校で開催された地域の方々の防災研修に参加させてもらいました。南区内の指定避難所でも順次配置が進んでいるマンホールトイレを,実際に地域の自主防災会の方々と一緒に設営しました。
設営自体の大変さもありましたが,地域の年配の方々が,豊富な経験を活かして行動されているのを見て,災害を初めて体験する人がいたら,そうした方に対して自分たちが冷静に対応をしていくことの必要性を感じました。また,訓練に参加するだけで地域の方々に喜んでもらえたこともあり,自分たちのような若い力も求められるのだと気づきました。
避難所運営ゲーム(HUG)の体験
HUGは静岡県が開発した防災を考える避難所運営カードゲームです。体験してみて,災害時,避難所でどのように対応していくと良いかを学びました。実際に災害にあって学校が避難所になったときの大変さを想像し,その経験から,自分たちで「HUGの塔南高校バージョンをつくろう」という話にもなりました。今後,後輩と一緒にHUGをやってみながら,塔南高校では備蓄場所をどこにするとよいかや避難場所をどのように設営するかを考えたいと思います。また,地域と方々とも一緒に体験し,避難所運営について考えるきっかけにできればと思いました。
今後,取り組んでいきたいことは?
被災地でのボランティア活動や現地への訪問
● コロナ禍で実際に被災地に行くことは難しいけれど,オンラインでの交流を行うことで,私たちも災害について学ぶことができ,こちらからも少しでも元気を送れたらうれしいなと思っています。
● 実際に被災された方や地域を訪問して,現在はどのように整備されているのかを自分の目で見て,当時からの変化を伝える役割を担えるようになれたらと思っています。
救命救急について学びたい
● 災害から身を守る方法を学ぶにつれて,誰かが怪我したり倒れたときに救命救急をできないといけないと感じたので,救命救急についてもっと学んでみたいです。運動系の部活動では,講師を招いてAEDの使い方などを学ぶ機会があるけれど,文化系の部活にはそうした機会がないので,実際にやってみたいと思っています。
自分が学んだことを伝えられる場を持ちたい
● 塔南高校の校内でも,防災について学んだことを発表していきたいです。これまでにも校内で発表したり,マップやクイズを作って掲示しているけど,まだ見ていない人も多くいると思うので,今後もさらに発表する機会を持ちたいと思います。
● 祥栄小学校でのマンホールトイレ設営など,地域での防災活動に参加した経験を活かして,自分たちが,さらに次の世代への架け橋になりたいと思います。例えば,地域の小学校高学年の子どもたちに,防災について伝えられるような場をつくっていけたらいいなと思います。
メンバーの皆さん,1人ひとりが,1年間の経験を経て,“知る”,“体験する”,だけにとどまらず,それを次に伝えていくことが大事だと強く感じたそうです。
最後に,防災ボランティアリーダーの担当をしている伊藤先生が「1年間の活動を通じての1番の成果は,こうして1年生が次にやりたいことを自分から話すようになったことだと思います。次年度もさまざまな団体との取組が予定されており,これからが楽しみです。」と話されました。
あなたも,参加できる地域の防災活動を探してみてはいかがでしょうか。
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南区情報ステーション「みなみなみなみオンライン」
取材/文 まちとしごと総合研究所
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