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小説:風船

地平線の向こうで大きな風船が膨らんでいる。
いつからか太陽より、彼女の風船の方が大きくなってしまった。
元は何色だったか思い出せない半透明な大きな風船は、今日の太陽に照らされて。橙に光っている。

僕の初恋の相手は風船を膨らませる仕事をしていた。彼女は干渉を嫌い、無限に憧れていた。
いつかひとりでどこかに落ち着いて、無限に膨らむ風船を膨らませ続けたいと言っていた。
ある朝、あるニュースの話を彼女とした。
無限に広がったアインシュタインの脳内と宇宙は同一になっていたという。
無限に大きくなるものは、無限という新しい要素を持ち、他の無限と同一になることが証明されたらしい。
彼が生きている時代の人々は、彼の頭の中で生活していたというのだ。

「干渉から逃れる事と無限に近づく事は相反するようだね。」と僕は言う
「干渉と同一になる事は違うわ。同一になるなら、それはとても素敵なことよ。」

白色の風船を膨らませながら、彼女は言った。

ある日、彼女の部屋に行くと。彼女は居なくなっていた。
僕は、部屋に残された風船の空気を抜いた。さっきまで大きかった青色は鼠みたいに部屋の中を暴れ回った。
彼女は、今日もどこかでひとり、無限に膨らむ風船を膨らませ続けている。