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君の匂いに包まれてゆく

「くせっ毛めんどうだよ」

と今日も君は表情を変えず慣れた手つきでヘアアイロンを操る。

お風呂上がり、くるんと丸まった前髪は君の大きな瞳にはとても似合ってるのにな、と思いながら

「次、お風呂借りるね」

と君のシャンプーの匂いでいっぱいになった部屋をあとにした。


するすると身にまとっていた服を脱ぎ捨て、浴室のドアを開けると、そこもシャンプーの匂いでいっぱいで思わず吸い込んでしまう。

早くシャワーを済ませて君の元に駆け寄りたい気持ちとは裏腹に、いつも以上に時間をかけて髪を洗う。

この一分、一秒が君と同化するための儀式だと思うと嬉しくって念入りになってしまうのだ。


君とは対照的にまっすぐで癖ひとつない私の髪を君はいつも「サラサラだね」と大きな手で撫でてくれる。

その甘美な時間が少しでも永く続くように、念入りにドライヤーをあて、何度も手櫛をとおす。

オシャレな服もバッチリきめてきたメイクももう身にまとっていない。

代わりに同じシャンプーの匂いとよれよれの君のジャージを身にまとった私は、髪だけが輝きを放っているかのように思う。

最後にもう一度、髪を手櫛で整え、鏡の前でニッと笑顔の練習をする。

大丈夫。今日もそこそこ可愛いぞ、と自分に暗示をかけて。
今日もまた、髪を撫でてもらうために。


いま、君の一番近いところで匂いに包まれる。


#美しい髪 #エッセイ #日記 #ショートストーリー #note #等身大の恋愛


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