季節の変わり目。祖父母との思い出。
風が冷たい。
季節が進み出した。
今日はどんよりの曇り空。
歌ならば、今にも泣き出しそうな空、と形容されるような、そんな空であった。
鉛色の雲。
夏とは風の音までも違う。
鼻に風の冷たさが伝わりツンとした。
僕は季節の変わり目を感じると、何故だか幼い頃を思い出すのだと最近気がついた。
共働きで忙しい両親の代わりをしてくれたのが、祖父母であったからか、幼い頃の思い出は、父母よりも祖父母との思い出が多い。何気ない日常。そんな中のふとした情景が、匂いが、祖父母との思い出と共に蘇る。
風が冷たくなったこんな日、ばあちゃんは迷わず鍋をしたと思う。しかも、僕達の口に合うものではなく、素朴な、しかもじいちゃんが好きなものをたくさん入れた水炊きだ。
醤油に橙を絞る。
鍋からは昆布出汁の匂い。
じいちゃんはビールを飲みながら、阪神の話や、近所の人の話やら、上機嫌で顔を赤くしてしゃべる。ばあちゃんは相槌をつきながら、忙しなく動く。
今の世の中とは違い、尊重すべきは年長者であり、一家の家長を中心とした食卓であった。
そんな思い出に浸る中、冷たい風が吹いたので、ばあちゃんがそうしていたように、今日は鍋にしたいと思った。買い出しに妻と共に出かけた。
途中、鍋の中に春菊を入れたいと妻に言ったら、子供達が嫌いだからダメと言われた。
季節の変わり目、祖父母との思い出と共に、僕の目の前には今にも泣き出しそうな空が広がっていた。