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『小説の神様』を読んだ

『小説の神様』という作品、先に映画を観て面白かったから、2回目を観に行く前に原作の小説を読んでみようと思って買ってみた。
結果、ひたすら苦痛だった。
150ページくらい読んだところで、このままでは挫折すると感じて、先にエピローグを含む物語の最後を読んだ。
綺麗な終わり方だった。だから、辿り着く場所がそこだというなら、頑張って読もうと思った。

何が苦痛だったかというと、380ページ中300ページくらい、主人公の一也が超ネガティブな上、その考え方を周囲に撒き散らし続けているのだ。
自分が売れていないのに、後輩の考え方を否定しつつ、売れるための理屈を延々と説く様は、なんというか痛々しくさえあった。
途中途中で担当編集者や詩凪が言葉をかけるが、一也の考え方は基本的には300ページに渡って何も変わらない。ただ延々と同じ心情を地の文でも会話の中でも言い続けている。
結局一也を動かしたのは、病室での妹の言葉と、詩凪の秘密を知ったことだ。後者のために九ノ里の言動が役には立ったが、直接一也の信念に影響は与えていない。
ラスト80ページで、一也は人が変わったように後輩や詩凪を励ます。完全におまいう案件だが、後輩も詩凪も気にしていないようなのでよしとしよう。

一也の心情は理解できる。リアルだとも思う。
妹が重い病気で、父親もおらず、借金もある。お金は必要だ。それなのに、本は売れない。
卑屈になっていくのもわかるし、一也の言動が変だとは思わない。物語としても間違ってはいない。
ただ、読んでいて面白いかどうかと言われると、自分は面白いとは思わなかった。ラスト80ページだけ、何度か読み返すかもしれない。
この点に関しては、そういうのが楽しく感じられる読者ももちろんいるだろうが、自分には合わなかった。

映画との違いとしては、詩凪の席が隣であることや、後輩は先輩たちの正体を知らないままであること、九ノ里のキャラクターは原作の方が良かった。
保健室に連れていくくだりも、原作だと納得できた。映画を見た時、何故そこにお前がいるのかと思ったし。
他には、父親とのことはさらっとしていて、最後に詩凪の回想で読者に伝えてくるのはとても良かった。映画では少々父親とのシーンが過剰だった。
逆に映画の方が良かったと思ったのは、原作で延々と語られる一也のネガティブがあっさりしていたこと。軽くなったわけではなく、表現としてあれくらいでいいと感じる。原作はいくらなんでもくどい。
後は、本のサインは完全に映画の方が綺麗。詩凪の秘密を知るための道具とするより、秘密を知ってから見ることで、詩凪が本にサインをした重みとか気持ちが伝わってくる。

映画の感想で、完成した本が見たかったと書いたが、原作も展開は同じだった。
本作品は続編が上下巻で発売されている。その上下巻で語られる物語はともかく、二人の作った本がどうなったのか気になるので読んでみたい。

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