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絵本を持って画材屋さんへ

絵本づくり教室2回目を受けたあと、絵本に使う紙と画材を買うために、京都・白川北大路にある「バックス画材」さんへ向かった。

先生からは「画材屋さんによって置いてある紙が違う。はじめに買ったところと違うお店で、追加して買おうと思っても置いてないことがあるので気をつけて」と聞いていたが、具体的に購入を指定されたお店はなく、「後々のことを考えて、自宅から近いところで探してね」という話だった。

白川北大路は自宅からは少し遠いので、近所ではない。
なのに、初心者のわたしが「バックス画材さんに行こう」とすぐ思えたのはなぜかというと、これより少し前に、ダミー本を作るためのA3サイズの紙を買いに訪れたとき「バックス画材さんは紙に力を入れているお店」と知ったからである。

(ちなみに、そもそもバックス画材さんの存在を認識していたのは、お隣にCoCo壱番屋があるからだ。駐車場がある店舗なので、家族そろってよくお世話になっていて、車から降りるたびに「あ、画材屋さんあるんだ〜」と思っていた。なのでダミー本のためにA3の紙が必要ときいたときも「近所の100円均一にはA4までしかない・・なら画材屋さんか・・ならあそこか」という感じで、まず頭に浮かんだのがバックス画材さんだった。)

「バックス画材さんは紙に力を入れているお店」と知ったときのことを少し振り返ると・・・
当時のバックス画材さんでは、2階の展示スペースにて「西垣と臼井展」が開かれていた。ダミー本用のA3サイズの紙を手に入れ安堵していたわたしは、ちょっと覗かせてもらおうというくらいの軽い気持ちで2階へ上がった。すると、見たことのない迫力の書ときらめく絵の作品がドーン・ドーン・ドーンと並んでいて「ええ〜〜すごーーー・・すごいなー・・!」と圧倒された。

その日はちょうど臼井さんが在廊されていて、先客の方おひとりに向けて解説されているところに、後から追いついたわたしも混じらせてもらった(というか「何ていう漢字に見えます?」と話しかけてくださったのである)。臼井さんは、作品の解説や背景をはじめ、この展示場をどう使ったかについても設営前の動画などを見せながらとても丁寧に説明してくださった。

すごいなぁ〜いろんなことを考えて考えて作られた場なんだなぁ、ありがたいもの見せていただいたなぁ〜、という気持ちで帰ろうとした際にふと「あなた(ミナックル)は何かしてるのか?」と聞かれたので、最近絵本教室に通い始めたと話したところ、「教室のメンバーがいるならここでグループ展をしてはどうか?」とご提案を受け、臼井さんはその場ですぐにお店のスタッフさんを紹介してくださった。

スタッフさんは、急な紹介にもそこまで動じず、パンフレットを手渡しながら、今回の展示をなぜ開いたか、どのようにこの2階スペースを使っていきたいかなど丁寧に説明してくださった。一方わたしは、そそんな、絵本のダミー本すらまだ描けていないのに、お、恐れ多すぎる・・と内心ビクビクしていたが、臼井さんからすれば絵本づくり教室に通っている人がこの先の未来にここで展示会をするというのはありえないことではないのか、と気づかされ、少しワクワクもしながら聞いていた。

そうしてこのときの会話の中で、スタッフの方が「うちは紙なので」とさらりとおっしゃったことで「バックス画材さんは紙に力を入れているお店」とわたしは知ることになった。臼井さんの計らいとスタッフさんのご説明のおかげで、画材屋さん初心者のわたしの中に「紙ならバックス画材さん」という認識がインプットされたのだ。

というわけで、訪れる画材屋さんはすぐに決まったのだが、問題は何を買うかである。

絵本づくり教室では、先生から数種類の紙の実物をもらって、コンテや色鉛筆などで試し書きさせてもらった。だが、どれもそれぞれによく、わたしはどれにするか決めかねていた。いったいどれにしたら楽しく描けるのかわからない。

悩んだ末に「もし描けるならこんな絵を描けるようになりたい」憧れの作家・佐々木マキさんの『ねむいねむいねずみとおばけたち』の絵本を持っていって、バックス画材さんに聞いてみてはどうかと思いついた。

お店に入るとスタッフの皆さんは接客中のようだ。
少し待って、満を辞して、絵本を開きながら、声をかける。

「あの、お伺いしたいんですが、こういう絵の描ける画材が欲しいんですけど、どれになりますかね・・」

スタッフさんたちは、「はい」と応えながら絵本を受け取ってくれた。

事前にダメ元でグーグルで佐々木マキさんの使う画材を検索してみたところ「透明水彩」「ガッシュ」「ゼブラのペン」といった単語が出てきたので、念のためにその検索結果もスタッフさんには伝えた。しかし、これの出典は不明で、わたしはそのどれも使ったことがない・・。

スタッフさんは「ガッシュではないですね」とつぶやかれつつ、わたしが開いたページ以外も1ページ1ページゆっくりめくって、「水彩だと思いますが・・」とすぐに断定せずに、絵本の絵から「画材の足取りが追える部分」を探していかれる。

そしてついに「あ、ここ」と絵具のたまっているところを指差して、「水彩ですね」とおっしゃった。

えーー!わーー!ここで?!
すごーーーい!探偵ーーー!!?!

「ありがとうございます!」というと、スタッフさんはニコッと微笑んで「ご案内しますね」と該当の画材のあるコーナーまで連れて行ってくれた。

「はじめから絵本のように美しく均一の色は描けない」と優しく教えてくださった上で、画材は「透明水彩絵具ホルベイン」を、紙は「ヴィファール 中目 242g/m2」と「ホワイトワトソン 163kg 中性紙」を紹介してくれた。

画材は一択だが、紙は二択か・・・。

ホワイトワトソンは絵本教室で紹介してもらった紙だからみたことがあるけど、教室で「なんとなく白よりも黄色味がかった方が好きだな」と感じていたので、ちょっとやさしげな色合いのヴィファールを選ぶ。
もちろん、こちらの方が安いという理由もある。

「絵具は一度試してみられてからでも」とアドバイスをいただいたので、好きな色を2色と、ヴィファールの紙を1枚買って試してみることにした。

絵具と紙を手に持つと、目当ての画材にたどり着いた実感が湧いてきた。

う、うれしい〜〜〜〜〜・・・!

人生において、画材屋さんでちゃんとした画材を買う日が来ると思ってなかったし、それがこんなふうに成立するなんて・・・思わず人生を謳歌しそうだ。

お会計のときにも「あの・・っ!急なお願いをしてしまいまして、すみません、ありがとうございました・・助かりました・・っ!!」と感極まり気味に感謝を伝えた。スタッフさんは「ありがとうございました」と微笑みを返された。

もしかしたら、こういう無茶な相談をもちかける客はわたしの他にもいるのかもしれないな・・お手を煩わせて、すみません。でも本当に、助かりました。

このとき買った紙は3回目の教室に持って行って、水張りの実演に使ってもらった。先生から「いい紙ね」と言われて、選んでくれたスタッフさんの顔が浮かんだ。

水張りしてもらった紙を持ち帰って、ホルベインの絵具で色を塗ると、とっても楽しく描けたので、教室が進んで「本描き!描いていきましょう。いけるいける」と背中を押されたあと、必要な絵具や水張りのための木製パネルもバックス画材さんで手に入れた。

あのとき対応してくれたスタッフさんは、実はあの日以来お見かけしていないけど、もしまた会えたら、こっそり感極まるかもしれない。

サポート頂いたら、画材か紙か学びに投資させていただきます!