倒産法判例百選 No.10「債権質の設定者の破産手続開始申立権」
1. 本判例の解説
【判例タイトル】No.10「債権質の設定者の破産手続開始申立権」
【判例番号】東京高裁 平成24年9月7日決定
【事案の概要】
XはYに対する75億円の貸金債権を、A銀行に対する自身の債務の担保として質入れしました(債権質の設定)。Xはさらに10億円の債権も主張し、これらの債権を基にY社の破産手続開始を申し立てました。しかし、裁判所は10億円の債権が既に消滅していること、そして質権が設定された75億円の債権については、Xに破産手続開始の申立権がないと判断し、申立てを棄却しました。
1-1. 問題となったところ
質権設定者(X)が「債権者」として破産手続開始の申立権を有するかという点です。民事再生法や破産法における「債権者」とは、債務者に対して債権を持つ者を指しますが、質権が設定された場合、その債権の管理・取立権は質権者に移るため、質権設定者が「債権者」としての地位を持つかどうかが問題となります。民法第366条により、質権が設定された債権は質権者が専属的に管理するため、質権設定者はその債権をもって破産手続を申し立てることができません。
民法の知識がないとこの問題がわからないので、民法の実態の説明と絡めて本問の説明をする必要があります。
1-2. 周辺知識:「債権質の性質」
債権質とは、債権そのものを担保として設定される質権です。本件では、XがYに対する75億円の貸金債権を、A銀行に対する自身の債務を担保するために質入れしています。債権質の特徴について説明します。
1. 取立権の専属性
質権が設定された債権については、質権者(本件においてはA銀行)が専属的に取立権を有するため、質権設定者はその債権を回収することができません。破産手続開始の申立てにも、質権者の同意が必要です。
2. 被担保債権との関係
債権質は、質権設定者(X)のA銀行に対する債務の担保のために設定されます。A銀行は、債務者Yからの返済があった場合、その債権から優先的に弁済を受ける権利を持ちます。
以上により、質権設定者は債権の権利行使のための資格を失います。そのため、質権設定者が債権者に含まれるかが本件の争点となりました。
規範
2. ショート問題と解答例
【問題】
Y社の総債権額は700億円であり、そのうち債権者であるXはYにい対する75億円の貸金債権をA銀行に対する債務の担保として質入れしています。XはY社の破産手続開始を申し立てましたが、A銀行の同意は得ていません。この場合、Xの破産申立ては認められるでしょうか。
【解答例】
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