倒産法判例百選 No.14「株主総会決議不存在確認訴訟が提起された株式会社の破産と訴えの利益」
1. 本判例の解説
【判例タイトル】 株主総会決議不存在確認訴訟が提起された株式会社の破産と訴えの利益
【判例番号】 最高裁 平成21年4月17日第二小法廷判決
【事案の概要】
本件は、Y株式会社(被告・控訴人・被上告人)の株主であり、平成19年6月28日当時Y株式会社の取締役であったXら(原告・被控訴人・上告人)が、Y株式会社に対して以下の2点について株主総会決議の不存在確認を求めた事案です。
同日に開催されたとするY株式会社の臨時株主総会で、Xらを取締役およびBを監査役から解任し、新たにA(Y補助参加人)ほか3名を取締役および監査役に選任することを内容とする決議
新たに選任された取締役らが開催した取締役会でAを代表取締役に選任した決議
Xらは、これらの決議の不存在を主張し、同年7月10日に訴えを提起しました。しかし、Y株式会社は第1審係属中の同年9月7日に破産手続開始決定を受け、破産管財人が選任されました。第1審(福島地判 平成19年11月22日)はXらの請求を認容しましたが、Y補助参加人Aが控訴し、原審(仙台高判 平成20年2月27日)は、破産手続開始によりY株式会社の取締役等の地位は当然に終了したと判断し、Xらの訴えには訴えの利益がないとして訴えを却下しました。Xらは上告受理申立てを行い、これが受理されました。
最高裁は、民法653条は、委任者が破産手続開始の決定を受けたことを委任の終了事由としていますが、これは破産手続開始により委任者が自ら行うことができなくなった財産の管理・処分に関する行為を受任者も行うことができないため、通常の委任は終了すると解されています。しかし、本件のような会社の取締役・監査役の選任・解任といった行為は、破産財団の管理処分権限とは無関係な会社組織に係る行為であり、破産管財人の権限には属しないと解されます。したがって、破産手続開始決定を受けても、会社と取締役・監査役との委任関係は直ちに終了するものではなく、訴えの利益は維持されると判断されました。
そのため、原審を破棄し、差戻しとしました。
1-1. 問題となったところ
本件では、破産手続開始決定を受けた株式会社において、株主総会決議不存在確認訴訟における訴えの利益が維持されるかが問題となりました。具体的には、破産手続開始により会社の取締役や監査役の地位が終了するかどうかが争点となり、これにより株主総会決議不存在確認訴訟における訴えの利益があるか否かが問われました。
論証パターン
会社と取締役は委任関係の規定(会社法330条、民法643条)ことからすれば、破産開始手続決定によって当然に取締役はその地位を失う(民法653条2号)とも思えるため問題となる。
会社の破産が委任の終了事由となっているのは、破産手続開始決定により破産財団に関する管理処分権を失うため(78条)といえる。その一方で、会社組織にかかるこういについては、破産管財人の権限に属するものではないため、当然に地位を失うものではないとする。
1-2. 周辺知識:「破産手続開始と会社組織の維持」
破産手続開始と取締役の地位
破産手続開始決定は、株式会社の解散事由となりますが(会社法471条5号)、会社の法人格は破産手続が終了するまで存続します(破産法35条)。そのため、破産手続中であっても、取締役などの会社機関は存続し、一定の行為について権限を行使することが求められます。委任関係の終了と例外
民法653条2号は、委任者の破産を委任関係の終了事由としていますが、会社組織に係る行為、特に取締役や監査役の選任・解任に関する事項は、破産財団の管理処分権限とは無関係であり、破産手続開始によって直ちに終了するものではありません。会社組織に係る行為の重要性
株主総会や取締役会など、会社組織に関わる行為は、破産手続中であっても会社の適切な運営と清算手続の進行に重要な役割を果たします。そのため、破産手続が開始された場合でも、これらの行為については取締役等の権限が維持されるとされています。
2. ショート問題と解答例
【問題】
Y株式会社は破産手続開始決定を受けましたが、その前に臨時株主総会でXらを取締役および監査役から解任する決議が行われました。この決議の不存在確認訴訟を提起したXらは、Y株式会社の破産手続開始後も訴えの利益を維持できるか。
解答例
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