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(詩)カンザスのドロシー

カンザスのドロシー 

トト あたしたちまだカンザスにいるのね
白と黒しかないこの地を去って
あの虹の彼方にあるという
素晴らしい国に行ってみたいわ
そこでは緑の野に色とりどりの花が咲き乱れ
空には青い鳥が飛んでいるんですって

この頃じゃみんな教会に行かないで
掌くらいの小さな板にお祈りしているわ
そうしたら中の小男が言うんですって

 神はAIなり
 死者はよみがえり
 罪人が義と認められる
 ただ信ぜよ

たしかにずっと前に死んだはずの人が
テレビに出て演説したり
悪いことして辞めさせられた政治家が
選挙で返り咲いたりしてるけど
それは良い知らせってことなのかしら
あたしもヘンリー叔父さんの板を使ってみようしたら
そなたは人間かって訊いてくるのよ
頭にきてすぐやめてやったわ

最近写真屋さんで現像した写真が
みんな白黒逆に写っているのを知ってる?
あたしの顔は真っ黒であんたは白
でも変ね これが何度も続くと
そっちが本物のような気がしてくるのよね

トト 風がどんどん強くなるわね
あら 家が浮き上がったわ
あたしたち空を飛んでいるのね
虹の彼方のテクニカラーの国に行けるかしら

それとも竜巻でぐるぐる回されて
カンザスの白と黒がただ混ざり合って
着いた場所はどこまでも続く灰色の荒野
なんてことにならないかしら

※ドロシーはライマン・フランク・ボームの児童文学『オズの魔法使い』の主人公で、トトはその飼い犬。1939年製作の映画版では、ドロシーがカンザスにいるシーンはモノクロ、竜巻で運ばれた先のオズの国でのシーンはカラーで撮影されている。

(MY DEAR 第345号投稿作・改訂済)


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