(詩)抗議(プロテスト)
抗議
穏やかな春の午後
陽だまりのベンチから
子どもたちが遊ぶのを眺めている
頬を撫でる暖かい風
咲き乱れる色とりどりの花
その上を白い蝶が
ひらひらと舞っていく
飛び去る蝶のゆくえを目で追っていくと
公園の周りに植えられた高い木々が見える
そのはるか向こうに霞む高層ビル群
見渡す限り
どこまでも続く春
どこまでも続く平和
目を閉じて
想像の羽をさらに遠くへ飛翔させる
蝶は海を越え異国の地をゆきめぐる
どこもかしこも 春
だがそのうち
違う景色が見えてきた
廃墟となった街
崩れ落ちた建物
黒焦げの自動車
うつろな目をした子どもたち
道端にうずくまって泣く女
そこもまた 春
同じ大地の上
同じ空の下では
だれかが痛み 苦しんでいる
彼らの足元の花はやはり美しく
頭上の空はそれでも青く
春風はその髪に優しいのだろうか
遠くから聞こえる
救急車のサイレン
目を開けると
ベビーカーを押しながら
若い女がゆっくり歩いていく
サングラスの下から
目の周りの青痣が覗いている
ここもまた 春
うららかな春の世界
ここには人の世の苦しみが
いたるところに隠されている
この地上で流されたすべての血
こぼれ落ちたすべての涙
それらは大地にしみ込むと
青々とした草となり
色とりどりの花となって
生え出てくるのだろうか
大地は人間の愚行蛮行を
黙って受け止め
萌え出るいのちで包み
自然の美をもって浄化する
去年も
今年も
来年も
春
それはこの頑迷な種が
過ちを悔い改めるまで繰り返される
ひそやかな抗議
なのかもしれない
(MY DEAR 322号投稿作・改訂済)
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