(詩)かつて人間だった
かつて人間だった
昨日までの
美しい小さな町が
昨夜の爆撃で一変した
今日は一面の焼け野原
煤で黒く汚れ
崩れ落ちた
かつて学校や住宅や
劇場や教会
だったものの
瓦礫に混じって
そこここに散乱する
かつて人間
だったもの
昨日までは
主婦だった
もの
会社員だった
もの
学生だった
もの
乳飲み子だった
もの
昨日までは
それぞれ名前を持ち
愛する存在を持ち
夢と希望を持ち
帰る家を持っていた
ものたち
今日は
無関心な太陽の下
半ば焦げ
半ば腐乱しながら
ゴミのように転がっている
かつて人間
だったものたち
夜
抱き合う恋人だった
ものたちが
朝には
血みどろの肉塊として
結び合わされている
永遠に
✳︎
遠く離れた
大きな街の
大きな建物
その奥にある一室で
報告がなされる
どれだけの数の人間が
ものになったのか
その数字は
比較され評価され
次の目標が定められる
さらに多くの人間を
ものに変えるために
会議が終わると
立ち上がり
任務を果たすため
部屋から出ていく
かつて人間
だったものたち
✳︎
さらに遠く離れた
平和な町の片隅で
人間がものと化したニュースを
見ているぼく
これは非人間的だと
憂わしげに呟き
おもむろにチャンネルを変える
だが実のところ
ほんとうに非人間的なのは
ゆるやかに壊死しつつある
この心なのかもしれない
いつまでだろうか
ぼくらが人間でいられるのは
いつ来るのか
ものが人間になる日は
(MY DEAR 315号投稿作・改訂済)