(詩)川
川
小さな川が流れている
両岸には
向かい合う二本の木
川は深くも広くもないのに
渡ることはできない
ぼくはきみに想いを寄せている
だが自分の岸に足を取られたまま
一ミリも近づくことはできない
春
ぼくはおずおずと
小さな花を咲かせ
対岸のきみに微笑みかけた
きみもはにかみながら
やさしい香りを
そよ風に乗せて送ってくれた
夏
川遊びに疲れた子らの頭上に
緑の葉を広げながら
ぼくはきみを見つめていた
子どもたちは笑いながら
深くも広くもない川の両岸を
苦もなく行き来していた
秋
黄金色に輝くきみを見て
熱い想いに葉を真紅に燃やしながら
ぼくは風もないのに身を捩る
川は深くも広くもないのに
渡ることはできない
たとえその流れを
干上がらせたとしても
何ひとつ変わらない
どうしてぼくたちは
別々の岸に生まれたのだろう
このまま冷酷な大地に囚われて
枝先を触れ合わせることもないまま
やがて朽ち果てていく運命なのか
そのとき
伸ばしたぼくの枝先から
鮮血の雫のように
ひとひらの葉が落ちた
それは対岸から落ちた
黄金の一葉と
流れの中でむつみ合い
輪舞しながら下流に消えた
ひとひら ひとひら
ぼくらは葉をふり落とし
小さな川を錦に変えた
川はやがて大海に注ぎ込み
世界を紅と金で染め上げていった
そして冬
すべての葉を散らし尽くして
ぼくらにはもう何も残っていない
川は何事もなかったかのように
ぼくらの間を流れ続ける
それでも
ぼくらは満ち足りていた
ふたりを隔てる小さな川が
つかの間の日々
ぼくらを繋いでくれたから
(MY DEAR 330号投稿作・改訂済)
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