(詩)いいね
いいね
今だってそれは
人を幸せにする力も
持っているのだ
けれども近頃では
人は殺すために
この言葉を使う
「いいね」自体は
良くも悪くもない
「何」が「いい」のか
それが問題だ
それは使い手の価値観と
品性を映す鏡
白は白に
グレーはグレーに
そして黒は黒に
一粒の悪意の種
そのままでは一粒のままだが
暗い電子の土壌に蒔いて
「いいね」をたっぷりと注げば
それは芽を出し葉を茂らせ
青空を遮る巨木となり
有毒の果実をたわわにつける
誹謗中傷に いいね
弱い者いじめに いいね
差別やヘイトに いいね いいね
悪への「いいね」は
自らのうちに同じ悪が
巣食っていることを暴露する
共犯者の証印
冷たいスクリーンに
軽く触れるだけで放たれる
ひとつの「いいね」は
標的が世界中どこにいても
瞬時に心を傷つけることができる
自らは姿を隠したまま
一つひとつは浅い傷
だがペーパーカットも
何度も繰り返されると
いのちの深みまで切り裂くことができる
ごく微量の毒物も
一さじ一さじ加えていけば
やがて致死量に達する
「おまえなんか消えてしまえ」
いいね いいね いいね いいね いいね いいね
いいね いいね いいね いいね いいね いいね
いいね いいね いいね いいね いいね いいね!
†
きょう 騒がしい世界の片隅で
自らを消去したいのちがある
死因は「いいね」
それがニュースになると
たくさんの「いいね」がついた
遅まきながら棺を飾る
白々しい花のように
(MY DEAR 320号投稿作・改訂済)
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