(詩)ゲリラにやられて
ゲリラにやられて
やられた
曇り空だと油断して出かけたら
突然 滝のような雨
ちっぽけな折り畳み傘は
横殴りの雨には無力だ
あっという間に
アスファルトの道路には水が溢れ
ズボンと靴はびしょ濡れになる
たまらず最寄りの喫茶店に駆け込み
雨が弱まるのを待つ
窓際の席で一息つき
運ばれてきたコーヒーを飲みながら
ぼんやり外を眺める
近年ゲリラ豪雨という言葉をよく聞く
予測不能で突発的な集中豪雨
昔は驟雨と言っていたものだ
スコールという言葉もあるが
熱帯にしかないものと思っていた
近ごろ特に増えている気がする
気候変動のせいなのか
Guerrilla――
スペイン語で「小さな戦争」
数や装備では
圧倒的に優勢な敵に対して
奇襲攻撃を行う
神出鬼没の小部隊
この雨は
だれと戦っているのか
何のための戦いなのか
勝算はあるのか
ぼくは視線を
目の前のカップに移す
おまえはどうなんだ
戦う前から
諦めてるんじゃないのか
雨に濡れた身体が
店の冷房で冷えてきた
だがぼくが身震いしたのは
そのせいではなかった
もう一度外を見ると
バケツを引っくり返したような雨の中
急ぎ足で人々が通り過ぎていく
中には傘がなくて
ずぶ濡れで走っていく人もいる
誇り高き現代文明の
ささやかな混乱
それはもっと深刻な危機の
憂うべき前兆かもしれない
だが皮肉にも天のゲリラ部隊は
おのれの戦いを貫き通す勇気を
ぼくに与えてくれた
やがて雨はやみ
ぼくは喫茶店を出た
あんなに激しかった雨が嘘のように
雲間から青空さえ覗いている
見上げると
灰色の高層ビルの間には
虹がかかっていた
やられたな、まったく
(MY DEAR 328号投稿作・改訂済)
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