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(詩)ふつうの人々

ふつうの人々 


ふつうの人々が 通りを歩いている
ふつうの人々が 電車に乗っている
ふつうの人々が 行列に並んでいる
常識ある 礼儀正しい
ふつうの人々

エスカレーターでは片側に立ち
感染防止のマスクを忘れない
他者への配慮に満ちた
ふつうの人々

ふつうの人々が通る道端に
だれかがゴミを捨てる
すると別のだれかが
同じところにゴミを捨てる
たちまちそこはゴミの山になる

だれも見ていなければ
みんながしていれば
どんな悪事も平気でする
ふつうの人々

匿名で他者を中傷し
フェイクニュースを拡散し
災害時に買い占めをする
ふつうの人々

痴漢ネトウヨいじめっ子
モンペに荒らしにクレーマー
果ては無差別殺人犯

 「彼はおとなしい
  ごくふつうの青年でした
  あんな事件を起こすなんて
  いまだに信じられません」

権力者が投げ与える
パンと見世物に酔い
非常時にはパニックに駆られ
「敵」への憎悪を植えつけられ
勝ち目のない戦争へと突き進む
ふつうの人々

極限状況で
「ふつう」が狂気と獣性を意味するとき
彼らは無抵抗の市民を惨殺し
捕虜を拷問し
女たちを凌辱する

「ふつう」になるとは自由を喪うこと
「ふつう」になるとは自分を喪うこと
「ふつう」になるとは「人間」を喪うこと

通りを見てごらん
人間の皮をかぶった「ふつう」が
ぞろぞろ歩いている

鏡を見てごらん
「ふつう」が見返してくる
家畜じみた顔の背後から

(MY DEAR 322号投稿作)

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