(詩)出会い
出会い
最終電車から降りて
駅前の商店街を抜けると
家までは暗い夜道がつづく
今日はいつになく空気が澄んでいる
冷たいアスファルトからふと目を上げると
雲のない空にはいちめんの星が瞬いていた
ぼくは重い足取りを止めて
しばし星々に注意を向けた
夜空をじっくり眺めるなど何年ぶりだろう
だが子どものころ夢中で覚えた星座たちは
昔と変わらぬ配置でぼくを見返してくれた
かつてはいっぱしの天文少年だったぼくは
天球上の絢爛たる神話絵巻が
美しい偽りであることを知っている
おなじ星座で隣り合わせの星も
ほんとうは遠く離れているのだ
あの赤い光が元の星を出たころ
地球ではベートーヴェン最後の交響曲が初演され
「歓喜の歌」がウィーンの街に鳴り響いていた
その隣に見える光が生まれたのはさらに昔
人類の遠い祖先が道具を使い始めたころ
それは冷たい虚空を超え
隣の島宇宙からはるばる旅してきた
だが今夜
まったく異なる故郷をもつ
光のかけらたちが一つになって
ぼくの眼に落ちてくる
かれらは瞳孔を通り抜け
硝子体の中で円舞する
長い長い旅路の果てに
宇宙の片隅の
砂粒のような星の上で
ひそやかに行われる
光の逢瀬
いったいどうやって
かれらは知ったのだろう
たかだか数十年前に
生まれたこのぼくが
この瞬間
溜息をつきながら
夜空を仰ぐことを
(MY DEAR 318号投稿作・改訂済)
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