(詩)逆噴射
逆噴射
音楽は反抗の道具
なんていうのは昔の話
エンターテインメント業界は
巨大資本に支配され
「怒れる若者」さえも
企業のイメージ戦略のしもべとなった
オーディションで選ばれた
「それっぽい」若者
鋭い眼光と痩せぎすの姿
激しいビートに乗って歌い踊る彼は
たちまち若者のアイドルとなった
大人に支配されるな
自分の頭で考えろ
理不尽なルールはぶち壊せ
偽善に満ちた社会を糾弾し
大人が軽蔑する愛と真実を叫ぶ彼
だがその歌詞はすべて
計算され尽くした効果を生むために
プロの作詞家が用意したもの
彼が演じる「怒れる若者」は
ガラスケースの中のフィギュアのように
資本の論理の中で
鑑賞され消費されるためのもの
精巧だがいのちのない操り人形
*
だがやがて
企業の重役たちが
予想しないことが起こった
操り人形にいのちが宿り
自分の口でものを言い始めたのだ
台本にないMC
契約違反のネット配信
その姿はまさに彼のために作られた
「反抗的な若者」そのものだった
作られたイメージが
逆噴射したのだ
だがそれは
偶像の作り手たちの
意に沿わないものだった
彼の「反抗」は
無害なフィクションのはずだった
それを危険な現実に変えようとしたとき
彼はたちまち抹殺された
スキャンダルを捏造され
芸能界から追われた彼は
メディアで見かけることも もうない
*
けれども彼の蒔いた種は
多くの若者に届いた
自立と反抗のメッセージを
単なる娯楽として消費するのではなく
大人たちの意に反して
真剣に受け止める者たちが出てきたのだ
人はそれを若者の反抗と呼ぶ
だが本当に反抗しているのは
言葉なのかもしれない
自由 真実 正義 愛……
言葉の力を見くびり 冷笑し
飼い慣らそうとしてきた大人たちに
舐められてきた言葉たちが反旗を翻したのだ
時代は移り人は変わっても
受け継がれていくのは 言葉
社会のそこここで
押さえつけられていた言葉たちが
いま反撃の狼煙を上げている
(MY DEAR 326号投稿作)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?