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(詩)逆噴射

逆噴射 


音楽は反抗の道具
なんていうのは昔の話
エンターテインメント業界は
巨大資本に支配され
「怒れる若者」さえも
企業のイメージ戦略のしもべとなった

オーディションで選ばれた
「それっぽい」若者
鋭い眼光と痩せぎすの姿
激しいビートに乗って歌い踊る彼は
たちまち若者のアイドルとなった

大人に支配されるな
自分の頭で考えろ
理不尽なルールはぶち壊せ

偽善に満ちた社会を糾弾し
大人が軽蔑する愛と真実を叫ぶ彼

だがその歌詞はすべて
計算され尽くした効果を生むために
プロの作詞家が用意したもの

彼が演じる「怒れる若者」は
ガラスケースの中のフィギュアのように
資本の論理の中で
鑑賞され消費されるためのもの
精巧だがいのちのない操り人形マリオネット



だがやがて
企業の重役たちが
予想しないことが起こった
操り人形にいのちが宿り
自分の口でものを言い始めたのだ

台本にないMC
契約違反のネット配信
その姿はまさに彼のために作られた
「反抗的な若者」そのものだった

作られたイメージが
逆噴射したのだ

だがそれは
偶像アイドルの作り手たちの
意に沿わないものだった

彼の「反抗」は
無害なフィクションのはずだった
それを危険な現実に変えようとしたとき
彼はたちまち抹殺された

スキャンダルを捏造され
芸能界から追われた彼は
メディアで見かけることも もうない



けれども彼の蒔いた種は
多くの若者に届いた
自立と反抗のメッセージを
単なる娯楽として消費するのではなく
大人たちの意に反して
真剣に受け止める者たちが出てきたのだ

人はそれを若者の反抗と呼ぶ
だが本当に反抗しているのは
言葉なのかもしれない

自由 真実 正義 愛……

言葉の力を見くびり 冷笑し
飼い慣らそうとしてきた大人たちに
舐められてきた言葉たちが反旗を翻したのだ

時代は移り人は変わっても
受け継がれていくのは 言葉
社会のそこここで
押さえつけられていた言葉たちが
いま反撃の狼煙を上げている

(MY DEAR 326号投稿作)

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