見出し画像

(詩)外骨格

外骨格 

子どものときから
カブトムシが好きだった

牛乳嫌いで陽にも当たらず
ひ弱に育ったおれは
立派な鎧が欲しかったのだ

この柔らかく感じやすい肉体
すぐ破れて血を流す皮膚
その下で震える脆い骨と精神を
夏の焼けつく日差しからも
人々の冷たい眼差しからも
守ってくれる硬い殻が

だが防御の貧弱なおれの肉体は
敵意に満ちた世界の中で
簡単に傷つき血を流しながら
萎びて小さくなっていった

ある朝目覚めると
おれの全身は
硬く重い外皮で覆われていた
カフカの話のように
おれは巨大な甲虫になっていたのだ

だがザムザ氏と異なり
おれには喜びがある
ついに手に入れたのだ
信頼に足る外骨格を
もうこれからは
悪意の槍も冷たい無関心も怖くない

真新しい清潔な殻の中で
おれは弱った筋肉を動かそうとした
だが身体はぴくりとも動かない
まあいい 安全に勝る宝はない
ここでしばらくゆっくりするとしよう

すると柔らかな手が何本か
硬い外皮に手をかけた
おれを重い鎧ごと運んでいくと
別のところにそっと下ろした

しばらくすると
おれを収めていた重たい箱は
激しい炎を吹き上げながら燃え
おれは身体が軽くなるのを感じた
だが不思議と熱も痛みも感じない
ただ腐りかけた肉が見る間に焼けていく

せっかく手に入れた甲冑だが
あっという間になくなってしまった

すべてを失い 無防備になったおれ
しかしおれは幸せだった
光に包まれ 何にも縛られず
何も恐れることはない

守るべきものは
もう何も残されていないのだから

※ザムザ氏 フランツ・カフカの小説『変身』の主人公グレゴール・ザムザのこと。

(MY DEAR 346号投稿作)

いいなと思ったら応援しよう!