MIDNIGHT DANCING
研究と劇伴でバタバタしている間に2か月も過ぎてしまいましたが…7月末にリリースされたチワタユフさんの「MIDNIGHT DANCING」について。
共同編曲とミックスを担当しております。
世のなか、ミックスについては色んなHOW TO情報が溢れていますが、作編曲についてはそこまでないんですよね。折角なので、DTMerなひとたちに役立つ制作過程とかも紹介してみようかと。途中経過をちゃんと残していなかったので、ざっと軽くになりますが…曲の聴きどころも含めて記事にしてみました^^。
共同編曲の流れ
チワタユフさん(note、X(Twitter))とは10数年くらい、作詞から作曲を含むコライトまで様々な形で制作をご一緒させていただいています。僕は限られた時間しか作曲活動ができない都合、純粋に編曲だけをお引き受けすることは稀なのですが、チワタさんの作曲作品の原始的な面白さに惹かれ、1年間毎月の12曲の契約で…もとい延びて3~4年ぐらいペースで、ソロ・プロジェクトにも携わっております。
「MIDNIGHT DANCING」は7曲目です(いまは8曲目が完成寸前)。
編曲は、最終的に仕上げる音源や演奏の編成に合わせて、楽曲を構築する作業です。技術的な側面も大きいので、ポピュラー音楽などでは作曲と編曲を別の人が行うことが多いですね。
僕は基本自分で全部やっていますが、メジャーレーベルから出ている曲では「作曲=主なメロディー類と和音だけ採用」いうケースがあります。
チワタさんは近年ご自身のイメージの打ち込みをされるようになったので、そのDTMのファイル(Logic)と言語イメージをメールで共有いただいて制作をスタートします。
ちなみに過去ミュージカルの劇伴をお手伝いしたときは、元ファイルからエッセンスだけを抜いて編曲したのですが、ソロ・プロジェクトでは元のアレンジをできる限り生かすようにしています。なので、共同編曲、です。
まずドラム打ち込み
ファイル変換を挟んで、まずはいただいたmidiファイルのみをベースに、組み立てていきます。多くの場合、僕はドラムアレンジからスタートします。
今回のMIDNIGHT DANCINGは演奏感を想定しないダウナーなダンス系で、ゆったり聴けつつビートが感じられるうようにメインになるサビのリズムパターンを詰めていきました。必要なグルーブ感(踊るような感)を伝えられるように、音符長とベロシティ(音符の音量と音色)を詰めていきます。この作品は、深夜にヘッドフォンで淡々と聴くチル的楽曲なので、機械的なニュアンスをベースにしつつ、味付け程度に変化を付けました。
打ち込み初心者との差は、ベロシティだけでもかなりつきます。擬音表現で『チキチキ チキチキ』という8個の8分音符からなるクローズのハイハットシンバルをイメージしたとします。これをどう打ち込めばいいでしょう?
(1)「チ」は破擦音で高い周波数を含む音=強く叩いている音で「キ」は破裂音の弱め、(2)「チキチキ」でひとまとまりになるということは前半と後半が繰り返しなので、2つ目(と4つ目)の「チ」は、1つ目(と3つ目)の「チ」と差をつけたほうが綺麗そう、(3)今回はアフタービート控えめ…で、こんなベロシティ(図下段の棒の高さ)になります。
『チチチチチチチチ』なのか、『チキチキチキチキ』なのか、『キキチキ キキチキ』なのか…狙う曲想のイメージを深めておくのが大事ですね。
作業時間で言えば、ほんの数秒で終わることですけど、印象が劇的に変わります。どの程度変化を付ければいいかは、鳴らすシンセによって違うので、まずは自分の使うシンセとよく戯れるのがいいかと思います。
わかりやすいハイハットのベロシティ変化だけ紹介しましたが、他のドラムも同様に詰めていきます。
ドラム以外の楽器打ち込み
僕の場合、ドラムのあとはコード楽器、ベース、最後にその他上物を詰めていく流れが多いです。大事にしているのは、音符の長さ。MIDNIGHT DANCINGは機械っぽいニュアンスが欲しいので、基本的には8分音符は8分音符きっかりにクオンタイズして均一にしています。
その中でも、サビだけは上物と比べた変化が欲しくて、ベースに変化をつけてあります。
どこをどの程度短くするか、引っ張るかで印象が劇的に変わります。音が重なっている部分はスライド奏法ですが(ポルタメントと合わせてスライド奏法に切り替わるシンセを使ってます)、それはチワタさんのデモの要望に合わせたものです。
打ち込みパートの全体を、僕のアレンジ作業前後で比べるとこんな感じ。
サビ(赤いバーの後ろ)についてはそこまで大きく変えてないものの、音の大きさ(ベロシティ)と長さが違うのが見て取れると思います。シンセの特徴に合わせたこの辺のコントロールが、打ち込み上の腕の見せ所ですね。
サビ前のBメロは、ベースをコード感と動きを両立しつつ、歌メロと分離しやすいように変更しました。
全体的には、この作品は音数が少な目だったので、比較的チワタさんの打ち込みの音符は残しているかと思います。ピアノのコードとかも、淡々とした感じが良かったので、音符長は変えましたが基本そのままにしました。
僕のほうで唯一楽器で追加したのは、サビの6度の2声の和音です(上の濃い青色の2小節に渡る音符)。サビの変化をつけつつ、空気感を出したかったので。
ボーカル編集
チワタユフさんのソロ作品では、やりとりとスケジュールの都合で、だいたいアレンジ完成前に歌のファイルをいただきます。
この作品では、メインのボーカルが2本(片方はダブリング用)と、コーラスやハモリのラフを送っていただきました。そのあと、僕のほうでピッチ補正はもちろんですが、それらの声データを素材としてピッチ編集してハモリやコーラスラインを作成していくスタイルで進めました。
チワタさんのハモリやコーラスは、かなり直観的に重ねられたもので、音がぶつかり合っているので…たぶんこうしたいのかな、というところは推し量りつつ、容赦なく(?)元ファイルと全然違うピッチのハモリやコーラスに編集します。
この辺がだいぶ印象を変えるのですが、今回は編集過程を残していなかったので…また次の曲ではその過程も披露しますね。ちなみにボーカル編集作業は、Studio Oneに連携しているMelodyneというソフトを主に使っています。僕の作業くらいなら付属ライセンスのessentialで十分です。
最終的にはこんな感じになります。
この作品ではサビ前~サビだけダブリング、サビ後半には3声のハモリ、あとは2声を基本にしたハモリ・コーラスにしました。
ボーカル編集はすっごく気を遣う部分で…ピッチを補正しすぎないように、程々な塩梅を模索しています(特にインディーズ作品、補正し過ぎが多いと思うんですよねぇ…とポツリ)。
改めて…作家目線での曲紹介
最終的な作品は、YouTubeで聴けます。
曲名通り、深夜に聴きたいお洒落ポップ、です。
淡々としたややハイをローパスして切った4つ打ちビート、ちょっと変則的なシンセのハイハットとマラカスで遊びを入れつつ。淡々としたピアノのコード以外の上物は深めのディレイで空間を作って、気持ち手前に寄せてミックスしたボーカルとハモリ・コーラスで内省的な「深夜にヘッドフォンで聴くような」曲に。
サビ以外は、楽器隊よりもボーカル類と太めのフレットレスなベースでコード感を感じさせるような作り。はっきりとコードを奏でるピアノ×ベースが動き出すBメロに続いて、サビは上物の6度のパッド系シンセとメロディアスなベース、という逆のコンセプトに移る展開で差をつけて…。
この曲のチャームポイントは、ベル系シンセのイントロ間奏エンディングのフレーズですね。全体的に閉塞感のあるサウンドを救い出してくれるような。デモのLogicの音に、KV331社のSynthmaster 2のシンセ音を混ぜて作っています。
チワタさんの曲の面白さは、原始的な胎動のある曲想と詞の世界観。
僕が解説するものでもないと思うのですが…詞にも是非ご注目を!
ちなみに、僕がデモを聴いてイメージしたのは、実は宇多田ヒカルさんの「For You」「Time will tell」です。全然違います?(笑) いや、いまこの記事を書くためにさっき10数年ぶりに聴いて、あれ、こんなにビート強かったっけ…??と感じたので、どうやら「僕の中のFor You&Time will tell」だったみたいですが。ちょっと閉塞感のあるサウンドが心地いい、ってやつです。
…なんとなくわかります?(笑)
まぁそんなにリファレンス感はないですね(そもそも聴いて合わせてはないんで)。
あとがき
…と、なんかちまちま合間に書いてたら3週間くらい掛かりましたが。
また8曲目についても、こんな感じでサウンドの記事を書いてみようと思っています。6月リリースのシズカナル・カセイジンとか、他の曲もいずれ。
こんな話を聞きたい、とかありましたら、コメントなりTwitterで書いておくと拾います(気付けば)。
…にしても、書き上げたあと読み返すと、やっぱり理系ですね、僕。