クセモノぞろいの友人たちへ

拝啓、僕の最高に最強に個性的な友人様。

ご機嫌麗しゅう。そちらの天気など如何ほどだろうか。こちらは梅雨というのに雨はあまり降らず、クーラーが必要になるほど暑くなったかと思えば今度は涼しいくらいで温度差で体がバカになりそうだ。

さてこの度こうして筆を執ったのは他でもない。特別に伝えたいことがあるからだ――というわけでもない。

ただの気分だ気分。たまには畏まったことをしても良かろう。とはいえせっかくなので、日頃の感謝でも綴ろうではないか。

まずは先日の誕生会、ありがとう。本当に嬉しかった。まさかあんなに盛大にされるとは思っておらず腰が引けてしまった。何人の人に「誕生日おめでとう」という言葉を言われたか数えていないが、僕の人生史上最多人数だったことは間違いないだろう。というか知らない人(おそらく。僕が覚えていないだけだったとしたら申し訳ない)までいたのは何だったんだ。そりゃあ誕生日だと理由を付けての飲み会だ。気持ちはわからんでもないが、全く知らない人に祝いの言葉を貰う身にもなってみろ。それが例えば何かの大会で優勝したとかならともかく、一個人としての誕生日という身内も身内しか祝わないようなことに対して祝いの言葉を言う彼らに申し訳ない。あと純粋にどう反応していいのか困る。そもそもこの歳になっての誕生日が果たして嬉しいものなのか否か。僕は特に年齢にこだわりはないが、これがリアルだったら流石に恥ずかしすぎて死にそうになっていたことだろう。VR空間内で本当に良かった。まあVR空間でなければこんな大人数に祝われることもないが。

そんな誕生会を開いて翌週には別のフレンドの誕生会でまた酒を飲むことになるとは。ていうかそのフレンドは君のフレンドであって僕のフレンドではなかったのだが。まさか一週間後に知らない相手に「誕生日おめでとう」を言う立場になろうとは。酒の勢いとはすごいものだな。向こうがべろんべろんに酔っぱらっていてくれたおかげであまり気を追わずに済んだのがせめてもの救いだ。だた翌々日だがに会ったとき「はじめまして!」と元気よく言われたのにはさすがに面食らったが。

とにかく飲み会を開き過ぎである。どんだけ飲みたいんだ。肝臓の数値がバカにやるからそろそろやめておけと言いたい。言ったところで聞かないだろうがな。知ってる。VRゴーグルを被せたまま寝るのをやめろとあれだけ言っても聞かない君のことだ。聞くわけがない。聞く耳など持っていない。そこにはイヤホンかヘッドホンが被さっていて都合の良い言葉しか聞こえないようになっているからだ。アルコールと睡魔に対しての防御スキルが備わっていないと見える。その防具買い替えた方がいいぞ。

とはいえそんな飲み会に救われたことがないわけではない。その点に関してはお礼を言っておこう。ありがとう。けれども飲み過ぎるな。耳にタコができるぐらい言うからな。感謝はするが飲むのは控えろ。仕事で参ったときに一緒に飲んでくれる相手がいるというのは幸せなことだと思えた。まあ君の方が酒に弱いせいで最終的に君を介抱するはめになったことだけ解せなかったが。逆だろ。そういう日くらい僕が潰れるまで飲んで君が介抱すべきだろ。

あと与太話もあったな。恋愛とかいうなんかよくわからない感情について。かっこつけた言い方をするなと言いたいだろうが、そんなこと言わないでくれ。こうでもしないと傷口が痛む。結局この現象はなんあのだろうな。特定の相手に対して何故ああも感情が揺さぶられるのか。本当に解せない。いや確かに彼女は可愛い。ああ。アバター補正がかかっていたとしてもだ。別にリアルアバターに興味はない。本当だ。9割くらいは。いや9割9分9厘くらいはない。何故なら僕が好きになったのはあのアバターであの仕草であの声で喋るあの子なのだ。中身の性別などどうでもいい。多分。いやもしかしたら付き合えることになっていたら気にするようになったかもしれないが、そもそもその段階に進む前に僕は玉砕したのだ。そんなこと言ってもしょうがないだろう。ちなみに僕は飲みながらこれを書いている。別にいいだろう。最後なんだし。とかく僕は彼女もしくは彼の事が好きだった。できれば特別な存在になりたかったし特別な関係になりたかったしガチ恋距離とか撫でたり撫でられたりとか猫なで声で甘えたり甘えられたりだとしたかったんだよ僕は!でも無理だったんだ。どうして。いやどうしても何も人には好みとか性癖とかあるからしょうがないんだ。わかってるさ。でもどうして僕じゃいけなかったのか。僕は僕が納得できるその理由が知りたいのだけど彼女は決して話してはくれない。いっそ僕のことを嫌いになってくれたら嫌いな理由として話してくれたのかもしれないが友人としては好きとか言われてしまっては何も言えないじゃないか。ずるいと思わないか!ええ!

日頃の感謝と言いながら結局愚痴になってしまった。まあこんなものだろう。僕と君との仲なんて。これだけ愚痴れるくらい気心の知れた仲ということだ。というわけでありがとう。取ってつけたようにでも言っておこう。実際感謝を述べようと思って筆を執ったのは事実だし。なんだかんだ君には世話になった。写真の撮り方やアバターの改変方法やエモいワールドなどいろいろ教えてもらった。(だが騙してホラーワールドに連れて行ったのだけは今でも許さない。)

何故感謝を述べようと思ったのか。何故今日筆を執ったのか。
それは僕がこのゲームから消えてしまうからだ。
今までありがとう友人。君のおかげで僕はリアルライフを放棄しそうになるくらいこのゲームを楽しむことができた。君がいたおかげだ。
僕はいなくなってしまうけれど君たちは元気でいてほしい。いてほしいから飲み会を控えてVRゴーグルを外して寝てくれ。
そして好きな人とかできたらまあ適当に幸せになってくれればいい。
いないならいないで友人達で楽しく遊んでくれればいい。というかどちらかといえば僕はこちらを望む。好きな人なんてできるな。妬むぞ。
何はともあれ本当に感謝している。ありがとう。
僕のことは忘れてくれていい。世界に負けた僕のことなどどうだっていい。
もし僕が君達の記憶の中から消えなかったら、僕の勝ちだ。

それではさよなら。お元気で。

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