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讃岐うどんと博多うどんをハーフ&ハーフで食べたら切なくなった。

うどんといえば香川県。うどんといえば讃岐うどん。
全国的にもそんなイメージが定着しているが、実は香川以外にもうどんをソウルフードとして愛する県がある。福岡だ

『福岡はラーメンでしょ』と思う人も多いだろう。
確かに福岡=ラーメンであることは間違いない。しかし地元ではラーメンよりうどんを好む人は多く、福岡出身のタモリさんや博多華丸・大吉さんも福岡のうどん(博多うどん)の魅力を語っている。
福岡県民の私としても、幼い頃から慣れ親しんできたうどんは大切な存在だ。福岡のうどんはコシがなく柔らかい。この噛み応えのない麺の優しい口あたりがクセになる。
とはいえ、普段からうどんばかり食べているわけではない。
私が福岡のうどんについて改めて考えるきっかけになったのは、最近出会った香川出身のあきさんとの会話だった。

あきさん:『そういえば、福岡もうどんが有名なんでしょ?』
私:『うどん県の人に言うのは恐縮だけど(笑)、実はそうなんですよ〜!』
あきさん:『麺が柔らかいんだよね?』
私:『やわやわです。初めて讃岐うどんを食べたときはカルチャーショックでしたね』
あきさん:『うどんが柔らかいとかちょっと想像できないなぁ(笑) 』

香川と福岡、それぞれの場所から共通のソウルフードについて語り合う。
お互いにライバル意識などはなく、うどん愛に包まれた平和な時間・・・。

この会話がきっかけで、私は無性にうどんが食べたくなった。
と同時に、ある不思議な感情が湧き上がる。

「讃岐うどんと博多うどんを一緒に食べたらどんな感じなんだろう」

一度思いついたらもう気になって仕方がない。そして閃いた。

私:『あきさん、讃岐うどんと博多うどんをハーフ&ハーフで食べてみませんか?
あきさん:『え?うどんのハーフ&ハーフ??』

世の中には、ハーフ&ハーフという食べ方が存在する。これは2つのものを両方食べたいときに有効な方法だ。さらに私は「サクフワッ」「カリもちっ」など異なる食感を同時に楽しめるものにとことん弱い。
同じ「うどん」という形に生まれながら、正反対の食感を持つ讃岐うどんと博多うどん。口の中で一緒になったとき、どんなハーモニーを奏でるのか試してみたくなったのだ。

あきさん:『なんか面白そうやね(笑) やろうやろう!』

うどん県の人には「そんな邪道な食べ方…!何言ってんだコイツ!」と思われるのではないかとドキドキしていたが、あきさんが寛大な人でよかった。後日、お互いのおすすめのうどんを送り合うことにした。

香川から讃岐うどんが到着!

数日後、あきさんから讃岐うどんが届いた。
「せっかくだから」と有名人も数多く訪れる名店のうどんを送ってくれたそうだ。

その名も、うどんバカ一代

バカ一代

まずこのネーミングに脱帽だ。自らを「バカ」と称するあたり只者ではない。初対面の私はなんと呼べばいいのだろうか。うどんバカ?バカ一代?おバカさん?
いきなり「おバカさん」は無礼すぎる。ここでは無難に「バカ一代」と呼ぶことにしよう。はじめまして、バカ一代。
頑丈な箱に入ったバカ一代は、ずっしりと重く風格があり名店の威厳を感じる。

私は、このバカ一代とコラボするのにふさわしい博多うどんを選ばなければいけない。福岡にもうどんの名店は多いが、香川の大人気店にぶつけるとなれば、あれしかないだろう。

牧のうどん。創業40年以上の歴史を持ち、テレビでも度々紹介される福岡のうどんチェーン店だ。

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ここのうどんは博多うどんの中でも、特に麺が柔らかい。信じられないかもしれないが、牧のうどんの麺は食べているうちにどんどん出汁を吸い込み膨張していく。そしてついた異名は「食べても食べても減らないうどん」。店舗では、うどんと一緒にやかんに入った出汁が提供され、都度出汁を注ぎ足しながら食べ進めていくスタイルだ。

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牧のうどんなら、バカ一代のハーフ&ハーフの相手として申し分ないだろう。今回はテイクアウトの袋麺(4袋入り)を購入し、あきさんにも送った。

紹介①牧の

【初日】 かけうどんで食べる

2つのうどんが揃ったところで、さっそく実験開始だ。
まずはかけうどんで食べてみよう。

ツルもちのバカ一代と〜、やわやわの牧のうどんが〜、出会った〜。

脳内で勝手に世界ウルルン滞在記のナレーションが流れ始め、作る前からもうワクワクが止まらない。
興奮する気持ちを抑えて冷静に作り方を確認する。茹で方を間違えると台無しだ。

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バカ一代は茹で時間が長く、一度水でしめるという工程も加わる。一方、牧のうどんは30秒程度温めるだけでOKだ。先行してバカ一代を茹でていく。

初日バカ一代茹で

バカ一代が茹で上がったところで牧のうどんも茹でる。

初日牧の茹で

量が同じになるように盛り付けて出来上がり!!讃岐うどんと博多うどんのハーフ&ハーフ第一弾の完成だ。ちなみに出汁は牧のうどんのものを採用した。

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写真だとやや分かりづらいが、小麦肌の麺がバカ一代で、真っ白な太い麺が牧のうどんだ。コシのある讃岐うどんと柔らかい博多うどんがお互いの良さを引き出し合い、優しい調和を生むだろう。
ワクワクも絶頂を迎えた。いざ実食!!いただきまーす!

おおっバカ一代のコシ強い!さすが名店の味。ツルツルもちもちでおいしい!

・・・・・ん??んんんんんんんんんん??????

牧の、どこ????????

確かにハーフ&ハーフで盛り付けたはずなのに、口の中はバカ一代の存在感しかない。いや、牧のうどんも時々主張はしてくる。ただ、とても控えめで弱々しく、意識しないと気付けないのだ。これはおかしい。私の気のせいだろうか。一緒に食べていた彼氏の様子を伺ってみる。

『地元を感じない・・・』

やはり彼の口の中も香川一色だった。バカ一代のコシの強さに、柔らかい牧のうどんが圧倒されているのだ。優しい口あたりが裏目に出ている。これでは「食べても食べても減らないうどん」どころか「食べても食べても存在を感じないうどん」になってしまう。ど、どうしよう・・・。

福岡で不動の地位を築いてきた牧のうどんが、バカ一代を前に行き場を失っている。途端に儚さを帯びた牧のうどんに、私は言いようもない切なさを感じた。うどんを食べてこんな感情を抱いたのは初めてだ。

しかしまだ初日。食べ方を変えれば、もっとバランスの取れた味わいになるかもしれない!切なさを感じながらも、翌日の冷たいぶっかけうどんに期待することにした。

【2日目】冷たいぶっかけうどんで食べる

気を取り直して2日目!今日はぶっかけうどんでハーフ&ハーフに挑戦だ。
まずは前日同様、タイマーをセットしてバカ一代から茹で始める。

2日目バカ一代茹で

そして茹で時間が残り20秒ぐらいになったところで、牧のうどんを投入。
存在感を高めるため前日よりも気持ち短めに茹でる。

2日目牧の入れる

ここからは冷やす工程だ。バカ一代が麺1袋で2人前あるので、量を合わせるために牧のうどんは2袋使っている。つまり4人前の麺が茹で上がったのでとにかく重い。私のポンコツ上腕二頭筋が悲鳴をあげる。

と、突如キッチンに現れた彼氏が水切りを申し出る。「俺がやる!」
その昔、彼は旅行で香川を訪れた際、たまたま口に合わない讃岐うどんに当たってしまったことでトラウマを抱えてしまったらしい。そこに昨夜の一件だ。何か思うことがあったのだろう。わっしゃわっしゃと勢いよく冷水で麺をしめ始める。

2日目水でしめる②

『ちょっ!牧のうどんも入っとるんやけん乱暴にせんで!!』
昨夜の儚くか弱い姿を見て、すでに牧のうどんに母性のようなものを感じ始めている私は、彼のバイオレンスな手さばきに思わずバリバリの博多弁でブチ切れてしまう。

そして何とか4人前の麺がいい感じに冷えた。小麦色の麺と真っ白な麺が、ザルの中で仲良く手を繋いでいるように見える。いい塩梅!

2日目茹で上がり

盛り付けて完成!!器もしっかり冷えておいしそう。今日はバカ一代の出汁でいただくことにする。さぁ、いざ実食!!

2日目出来上がり

おおおお!バカ一代、昨日よりおいしく感じるうぅぅ!

冷えてツルもち感が半端ない!!すっごいコシイィィィィィィ!!!

コシイィィィィィィ・・・・・

牧の、どこ????????

まさかの昨日と同じ展開である。というより、牧のうどん的には完全にマウントを取られ、むしろ昨日より切ない状況になってしまった。バカ一代はしっかり冷やすことで本来のコシを存分に発揮し、牧のうどんは水に打たれたことで柔らかさの限界を超えてしまったのだ。

これがその証拠写真である。お分かりいただけるだろうか。体がちぎれてぐったりした戦士たちを。

牧の瀕死+

対して、バカ一代はイキイキしている。大量の水を浴びたとは思えないタフさだ。

バカ一代(瀕死の牧のとの比較)++


まきの+++

心の中で「花より男子」の花沢類ばりに甘く囁いてみるが、もはや器の中の牧のうどんは瀕死状態。そんな姿を見て私はますます切なさを募らせる。「あの牧のが・・・」という気持ちを抱かずにはいられない。切ない。

胸がギュッと締め付けられる感覚に動揺を隠せないまま、2日目を終えた。

【3日目】 ハーフ&ハーフを諦める

2日間ハーフ&ハーフを試したが、もうこれ以上、牧のうどんの切ない姿を見たくない。そう思い3日目は牧のうどんオンリーで食べることにした。

そうそう!これぞ牧のうどん!本来のあるべき姿。元気そうで安心する。

牧の素うどん

さらに博多うどんの王道トッピング・ごぼ天もドーンとのせちゃう。

巨大ごぼ天トッピング

あ〜〜おいしい!ふわふわの柔らかい麺とごぼ天のサクサク感が絶妙に合う!出汁に染み込ませながら食べれば、もうこの上ない完璧なうどんだ。ハーフ&ハーフで食べたときとは別人のように輝いている。牧の、きれいだよ〜。

最後まきのうどん

ところで香川サイドはどうだったのだろう。あきさんの感想も聞いてみたい。

香川サイドの見解

私:『あきさん!ハーフ&ハーフ、試しました?』
あきさん:『食べたよ〜!なんか、博多うどんはうどんというより、もはや水に近いね!
私:『み・・・水!!!』
あきさん:『噛まなくても飲み込めそうだった!』

さすが讃岐陣営。あのコシに慣れていると博多うどんの柔らかさは水同然らしい。つまりハーフ&ハーフで食べたところで、博多うどんは麺というより出汁に分類されるのだろう。うどん県民としての圧倒的余裕を感じる。

あきさん:『さぬき人からすると、やっぱりコシがないのは物足りなくてさぁ。残り3玉は焼うどんにして食べちゃった!(てへぺろ)

企画の打ち切りが早すぎである。この自由な発想もうどんに絶対の自信を持つさぬき人らしい。しかしハーフ&ハーフを早々に辞めたあきさんは、牧のうどんを別の食べ方で楽しんでくれていた。
ちなみにあきさんが作った焼うどんがこちら。おいしそう!!

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あきさん:『柔らかい麺に味が染み込んで、めっちゃくちゃおいしかった!』

香川では焼うどんという新しい姿に生まれ変わった牧のうどん。なんだか切ない気持ちが少しだけ救われた。ありがとう、あきさん。よかったね、牧のうどん。

結論

結果として、ハーフ&ハーフで期待した「2つのうどんが奏でるハーモニー」を感じることはできなかった。もちろん、バカ一代が悪いわけではない。彼らは自分たちの仕事を全うしただけだ。合唱でアルトがソプラノにかき消されてしまう感じ、あの感覚に似ている。

そして牧のうどんに抱いた切なさと儚さ。これまでどちらかというとラーメン派だった私が、この一件で博多うどんをとても愛おしく感じるようになった。普段意識していなかったうどんにこんな感情が芽生えるなんて想定外だったが、福岡が誇るソウルフードをもっと大事にしようと思えた。

考えてみれば、47都道府県どこにだって地元民に愛されるご当地グルメは存在する。あなたが住む地域にも、「ここに来たならぜひ食べて!」と自慢できるものが一つはあるのではないだろうか。生まれたときから当たり前に食べてきたものは、その価値や魅力について改めて考える機会は少ないかもしれないが、ときどき思い出して、愛の言葉を囁いてあげてほしい。きっとそれだけで、その味が何倍もおいしく感じるはずだ。

そして最後に。ぜひ、香川にお越しの際は讃岐うどんを、福岡にお越しの際は博多うどんをご賞味ください。我が街の食文化を豊かにしてきたソウルフードを、あきさんと私は胸を張っておすすめする。全国の皆さんに讃岐と博多、どちらの個性も認めてもらえたなら、これほど嬉しいことはない。

この世界にうどんを愛する人が増えることを願って、すべてのソウルフードがその地で輝き続けることを願って、私はこれからも博多うどんと共に人生を歩んでいこうと思う。

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