「非常にはっきりとわからない新年会」を主催したら思いもよらぬ奇跡がおきた
昨年の11月〜12月に千葉市美術館で行われた「目 非常にはっきりとわからない」の展示が、友人たちの間で話題になっていた。
ネタバレ禁止による少ない情報ながらも、「すごい」「やばい」「行った方がいい」と、SNSに発せられる熱量がすごい。
展示の詳細を知った頃には、既に12月に入っており、年末の忙しさも相まって、実際に足を運べたのは最終日の12月28日。混雑を見越し、開場前に着くよう向かったものの、既に長蛇の列。
30分ほど並んでようやく入れたが、噂通りの謎空間。恐る恐る7階と8階を往復するうちにゾッとする事実に対面する。ただ、何がなんだか分からない。タイトル通り「非常にはっきりとわからない」のである。
とんでもない展示を見てしまった
頭が混乱し、何が現実なのか分からなくなり、パラレルワールドにいるのではないかとクラクラしているところに、ばったり、久しぶりの友人とすれ違った。
「非常にはっきりとわからない」状態にお互いにモヤモヤしていたこともあり、展示を見た人限定で新年会でもやろうという話になった。
友人知人たちと、しっぽり、お酒でも飲みながら話せれば良いと思っていた。
まさかの目の目にとまる
Facebookのイベントページを立ち上げた。
たくさんの人と情報交換したいと、公開イベントにし、タイトルは「非常にはっきりとわからない新年会」とした。
展示を見たであろう友人知人に招待を送り、自身のページにイベントを投稿し拡散した。
ぴあのサイトで、スマイルズの遠山 正道さんが目の方々と対談しているのを知り、ダメ元でお誘いしてみると、二つ返事で快諾してくれた。
嬉しい。しかもフットワークの軽さすごい。
対談時に記事に書けないような話をたくさん聞いたのではないかと期待が高まる。これできっと色々なことが「非常にはっきりとわかる」はずだ。
しかし、展示を見たであろう友人たちの反応が悪い。かなりの少人数での開催になるな…。まぁそれはそれでじっくり話せていいかと諦めかけた頃、Facebookからの通知が届く。
どなたかがイベントをシェアしてくれたようだ。
南川さん… 誰だろう?
そう。まさかの。
目のディレクターの南川 憲二さんだったのである。
普段は気にも留めないFacebookの通知によって、目の公式、及びディレクター南川さんのページで、イベントがシェアされているという事実を知ったのである。
恐ろしい勢いで押されていく 興味ありボタン
さも公式イベントのようになってしまったイベントは驚くほどの速さで閲覧数が増え、最終的に参加者は20前後を行ったり来たりし、興味ありボタンは150近く押されるという事態になった。
共同主催の友人のTwitter投稿も、同じように南川さんと目の公式にリツイートされていた。
慌てて「非公式」の文言を追加するが、勢いは止まることが無かった。
まずい これは緊急ミーティングだ
目の方々に見守られている。遠山さんも来てくださる。お会いした事がない勇気あるAUDIENCEの数名が正体不明の非公式新年会に期待して参加ボタンを押してくださっている。
ちゃんとした会にしなくてはと緊張が走る。ミーティングしなくては始まらない。
急いでスケジュールを合わせ、主催3人で集まって話し合うことにし、それぞれのアイデアを出し合いながら、タイムスケジュールを書き、買い出しリストを作った。
仕事並みの本気の準備
会場は中目黒のEAT TOKYOをお借りする事にした。第一線で活躍するフードコーディネーターの齋藤 優さんのキッチンスタジオなので、料理がおいしいのはもちろん、展示風景を再現するにはぴったりすぎるくらいの場所で、廃材を散らかしたり、窓にビニールを貼るだけでそれっぽい雰囲気が出せる。最高の環境が整った。
展示会場の見取り図を起こし、美術館に掲示されていた貼り紙を完コピし、AUDIENCEシールを作り、トラテープやブルーシートを買い込み、撮影機材を準備し、お手伝いバイトを手配し、美術手帖や展示にまつわる記事を読み漁った。
貼り紙を作っていて気がついたのだが、なぜかフォントが2種類使われていた。美術館の方が作ったのか、目の方が作ったのか、真意はわからない。
「か」の字が特徴的でわかりやすい。数字のフォルムもかなり違っていた。
見取り図は、主催3人の記憶と、美術手帖に載っていた写真、イラストでスケッチされている方のブログを参考に書き起こした。
千葉市美術館の公式サイトには展示フロアの図面は載っていなかったが、検索を重ねていくと、1994年当時の見取り図画像がヒットしたので、それを元にトレースした。
衝撃のサプライズゲスト
そうして迎えた当日。
起きがけのベッドで寝ぼけ眼に携帯を見ると、Facebookにどなたかから友達申請が来ていた。
誰だろう。
プロフィールを見ると、職歴に「千葉市美術館」と書いてある。
こ、これは…
千葉市美術館のキュレーターで、今回の展示を企画した 畑井 恵さんではないか…。
慌てて承認ボタンを押すと、すぐさまメッセージが届く。
「自身も一鑑賞者として参加できたらなとひそかに思っているのですが、主催者側の人間でもあるのでご迷惑かなと迷っており、ご連絡差し上げた次第です。」
そ、そんな…。誰もが来てほしいに決まってる…。
ありったけの「会いたい」を込めて何往復かのメッセージのやりとりをすると、畑井さんは滞在中の福岡から、予定していた広島の用事をキャンセルしてまで、会場に駆けつけてくれた。
お会いできるだけでも光栄なのに、AUDIENCEシールの日付スタンプの刻印をはじめ、様々なお手伝いまでしてくれた。
この時点で感無量。
単なるオマージュで作ったシールが、実際に美術館でスタンプ作業をされていたご本人による刻印の貴重な記念品へと生まれ変わった。
エントランスの窓にはビニールを貼った。わかりづらい場所がゆえに必要な仰々しい貼り紙も、展示当時の千葉市美術館のエントランスとシンクロしてリアリティが出た。外の植木はゴミ袋を被せて、1階ロビーの雰囲気を演出した。
スタジオに置いてあった撮影機材や脚立をバラバラと配置し、展示に似せた。買ってきたアイテムに使われていた梱包材も、装飾に使った。
プロジェクターとPCを接続するコードの養生も兼ねて、エントランスからブルーシートを伸ばし、周囲をトラテープで貼った。天井からGoPro1台を吊り下げ、iPhone2台を固定し、ハンディ2名での撮影配置を作った。
時計の針は展示と同様、オンタイムを刻んでいる。目の特集記事が載った美術手帖2月号も展示した。
AUDIENCEシールはスプレーでペイントした。色分けをするのは、展示を見て「非常にはっきりとわかった」人は「青」、「非常にはっきりとわからなかった」人は「赤」のシールを、意思表示として胸に貼ってもらうためだ。(黄色はお持ち帰り用)
そうこうしているうちに、続々とゲストが集まり、ゆるやかに開会。おいしそうなフードも並び、初めまして同士の方々も展示の話題ですぐに打ち解けていった。
サイドテーブルには2色の付箋を置き、自分が思う「わかる」「わからない」をメモにして書き込んでもらい、壁に作った「非常にはっきりとわかる」「非常にはっきりとわからない」コーナーに貼り出した。
自分と同じ「わからない」があって安心したり、知らないことが書かれていてびっくりしたりと、メモを眺めているだけでも十分楽しめた。
見取り図をプロジェクターで投影。PC上でIllustratorを動かし、それぞれの記憶を頼りに図面の精度を上げていく。
わかるわからないメモと見取り図をいったり来たりしながら、ディスカッション。
フジロックでおなじみのデビルマンの、見た目とは裏腹の真面目トークに笑いが溢れる。
遠山さんは、目にまつわるエピソードや他の展示のお話をたくさんしてくれて、面白くて勉強になって素晴らしかった。しかも、檸檬ホテルでおなじみのあの声が渋くてかっこいい。
しかし、今回の展示については、見る時間も少なく、対談時には何も聞かせてもらえなかったようで、「非常にはっきりとわからない」という様子だった。
目の方々のストイックさが窺える。
まだ動員が少ない11月に5時間かけて展示を見尽くし、何から何まで精密にコピーされていることに膝から崩れ落ちるほどの衝撃を受けたはずが、カート上に寝ていた人物に気づいていなかったことが発覚した林さん。いてもたってもいられなくなって、一緒に展示を見た方にその場で確認の電話をかけるという姿が忘れられない。
そうして、各々が抱えたモヤモヤが爆発して、いくら時間があっても話し足りないといった盛り上がりの中で「実は…」と畑井さんにご登場いただく。
まさかのサプライズにざわめくAUDIENCE。
美術館サイドの裏話や、目の方々とのエピソードトークに一同大興奮。
「わからない」メモが「わかる」に変わっていき、キラキラと目を輝かせていく。
鳥肌が経つほど震える時間だった。
予定していた3時間はあっという間に過ぎ、興奮冷めやらぬ人たちの談笑で、会場はいつまでも賑やかなまま。
名残惜しさの中、「非常にはっきりとわからない新年会」は、「なんとなくわかったような気がするけど非常にはっきりとはわからなかった新年会」になって幕を閉じた。
クローズした会場で、主催と畑井さんとで小さな打ち上げ。
完全な非公式イベントがこんなことになるなんて、思いもよらないミラクルな流れを思い出しながら、用意していたとっておきのワインで乾杯。
緊張がほぐれ、おいしさが沁みた。
今回のイベントを通して、小さくとも声をあげることで、どこかで見ていてくれる人がいて、想像を超える大きな流れを生むことができるんだと教えてもらった。
南川さん、畑井さん、遠山さんはじめ参加してくださった皆様、EAT TOKYOのメンバー、そしてこの企画を持ちかけてくれた高澤 鎮と足立原 円香、本当にありがとうございました。
しばらくはこの余韻でしあわせに過ごせそう。