見出し画像

近現代文学史 補遺ノート

近現代文学史の全5回のシリーズだと触れていない作品もあるので、さっくり近現代文学史の作家と作品を確認する記事です。


明治期
小説・評論

啓蒙主義 = 西洋の思想を学び、日本に伝えようとした。
 福沢諭吉:蘭学から英学に移り、遣米使節団の一員となる。『学問のすゝめ』、『西洋事情』などを著す。慶應義塾の創始者。

写実主義 = 現実のありのままを描こうとした。
 坪内逍遥:江戸時代の文学から明治時代の文学への転換を促した。評論『小説神髄』で写実主義の理論を提唱する。小説『当世書生気質』で実践しようとするが江戸時代の文学の発想を残してしまい失敗に終わる。
  
 二葉亭四迷:言文一致運動の先駆者で、写実主義の実践家。評論『小説総論』を書く。小説『浮雲』で写実主義を実現する。

明治二〇年代頃の文学
擬古典主義=欧化反対
VS
浪漫主義=欧化賛成

擬古典主義= 江戸時代、特に井原西鶴の文学を手本とした。
 尾崎紅葉:言文一致体の完成者。女性中心の作品が多い。『多情多恨』、『金色夜叉』などを著す。
幸田露伴:男性的理想主義を反映した作品が多い。『風流仏』、『五重塔』などを著す。
樋口一葉:幸田露伴の影響を受けた女流作家。『にごりえ』、『たけくらべ』を著す。

浪漫主義=ヨーロッパで流行したロマンティシズムの影響を受けた。
 北村透谷:浪漫主義の先駆者であり、自由恋愛を日本に輸入した。評論『内部生命論』、劇詩『楚囚之詩』などを著す。
徳富蘆花:自然と生活の調和を求めた作家。小説『不如帰』を著す。
国木田独歩:自然主義文学に大きな影響を与えた作家。小説『武蔵野』を著す。

その他、初期の森鷗外も浪漫主義的な作品を描いていた。ほぼ同時期に浪漫主義に近い立場で、泉鏡花が『高野聖』や『歌行燈』を著していた。

自然主義=西洋で流行した自然主義の影響を受けた作家たち。ただし、西洋の自然主義とは異なり、ありのままを描くことを重視した。明治後期の文壇はこの自然主義と反自然主義の対立によって形成される。

島崎藤村:浪漫主義の詩人から自然主義作家へ。
詩集『若菜集』(浪漫主義時代)、小説『破戒』、『夜明け前』を著す。
田山花袋:自己告白の私小説のはじまり。小説『蒲団』、『田舎教師』を著す。

正宗白鳥:虚無的な意識の作家。小説『何処へ』を著す。

反自然主義 = 高踏派・余裕派、耽美派、白樺派の三つの派閥をまとめた言い方。理想や美的な世界を描き出そうとした。

高踏派・余裕派 =森鷗外、夏目漱石。二人とも留学経験を活かし、教養の深さと鋭い批判精神で多くの人々に影響を与えた。
森鷗外 :浪漫主義から歴史小説へ。
陸軍軍医としてドイツ留学した。
→ドイツ土産三部作の一つ『舞姫』を発表した。
翻訳小説と、医学の発展にも貢献する。
歴史小説を描くようになり、『高瀬舟』、『阿部一族』、『雁(がん)』などを著す。

夏目漱石 :知識人の苦悩。
イギリス留学をし、文化・文学について学ぶ。
→旧制中学や大学等で教鞭をふるう。
『吾輩(わがはい)は猫である』や『坊っちゃん』を著す。
→その後職業作家になり、新聞連載を開始する。
前期三部作『三四郎』、『それから』、『門』を描く。
その後、胃潰瘍を患い、吐血した「修善寺の大患」後、後期三部作『彼岸過迄』、『行人』、『こころ』を著す。
「則天去私」を理想とし、それを作品に描こうとした『明暗』は未完のまま、漱石は亡くなった。

耽美派 = 西洋で流行した芸術至上主義を影響を受けた。
永井荷風:耽美派作家の代表。代表作『あめりか物語』、『ふらんす物語』。慶應大学の教授として『三田文学』を主宰する。
谷崎潤一郎:悪魔主義の誕生。時代により作風が変化する。代表作『刺青』、『痴人の愛』、『細雪』

白樺派 = 人道主義的な立場で理想を追求。自我を尊重する。
武者小路実篤:白樺派を主導。代表作『お目出たき人』、『友情』。
志賀直哉:小説の神様と呼ばれた短編小説作家。
代表作『或る朝』、『城の崎にて』、『小僧の神様』、『暗夜行路』。
有島武郎:キリスト教的人道主義に基づく作品が多い。代表作『カインの末裔』、『生まれ出づる悩み』

韻文(詩・短歌・俳句)

 森鷗外:訳詩集『於母影』
 島崎藤村:『若菜集』
 土井晩翠:詩集『天地有情』
➡三人とも浪漫詩を書いた。
上田 敏:フランス象徴詩の翻訳。翻訳詩『海潮音』。浪漫詩と耽美派の間の時期に活躍する。
北原白秋:耽美的な新しい詩風。詩集『邪宗門』、『思ひ出』。反自然主義の作家による唯美的な傾向のある詩を作った耽美派。

短歌
浅香社(与謝野鉄幹)、根岸短歌会(正岡子規)、竹栢会(佐々木信綱)の三つの潮流が存在した。
与謝野鉄幹:浪漫主義の作風を得意とした革新者。雑誌『明星』を創刊し、歌人を育成した。
与謝野晶子:情熱的な歌風を得意とした。鉄幹の妻。歌集『みだれ髪』。
  ⇓与謝野鉄幹・晶子の影響を受けた
石川啄木:浪漫主義から生活派の詩人に。
三行詩を得意とした。代表作:『一握の砂』『悲しき玩具』
正岡子規:「写生」を主張し、短歌の一大潮流を生み出す。歌集『竹の里歌』、評論『歌よみに与ふる書』など。
  ⇓正岡子規の影響を受けた
伊藤左千夫:子規の後継者、アララギ派の基礎を築く。
斎藤茂吉:アララギ派の中心的歌人。歌集『赤光』

俳句
正岡子規:「俳句」を生み出した人物。評論『獺祭書屋俳話』、随筆『病牀六尺』
高浜虚子:子規の後継者にして、『ホトトギス』を主宰。

大正期
小説
新現実主義=自然主義や反自然主義の二つの流れに対して、
社会の現実を理知的に見つめた作家たち。 

新思潮派=雑誌「新思潮」に集まった作家の派閥。東大生を中心としたグループ。
芥川龍之介 =様々な文学作品をもとにした理知的な作品を得意とした。『鼻』が夏目漱石に認められ、作家活動を本格的開始する。代表作『羅生門』、『戯作三昧』、『地獄変』、『歯車』、『河童』など。「ぼんやりとした不安」を理由に自殺。→太宰治に影響。
菊池寛 =芥川龍之介の親友であり、作家の育成に尽力する。代表作『忠直卿行状記』、『恩讐の彼方に』、『父帰る』。雑誌「文芸春秋」を主宰し、芥川賞・直木賞を作り、新人作家育成に尽力した。
山本有三 =理想主義的な作品を描いた。代表作『女の一生』、『路傍の石』

奇蹟派=雑誌「奇蹟」に集まった作家の派閥。早大生を中心とする
グループ。
 葛西善蔵:『子をつれて』
 広津和郎:『神経病時代』

昭和期(戦前)
小説
大正末期~昭和初期
プロレタリア文学=文学で社会を変革しようとした派閥
VS 
新感覚派(芸術派)=文学は芸術作品であって社会を変革する道具ではないと考えた派閥。

プロレタリア文学 =第一次世界大戦による不況、関東大震災に影響を受けて、被抑圧階級の解放を訴えて活動した。
葉山嘉樹=「文芸戦線」の代表作家。代表作『セメント樽の中の手紙』、『海に生くる人々』など。
小林多喜二=活動家であり革新的な態度が強い作家。代表作『蟹工船』
徳永直=ナップの中心作家、穏健的な態度が強い作家。代表作『太陽のない街』

新感覚派= ダダイスムやシュルレアリスムなどの前衛芸術の影響を受けた文学派閥。
横光利一=新感覚派の実践家。代表作『日輪』、『蠅』。
川端康成=ノーベル文学賞を初めて日本人で獲得した作家。代表作『伊豆の踊子』、『雪国』。

その他、新感覚派に近い立場の派閥として、新興芸術派や新心理主義の作家もいたが、プロレタリア文学の圧倒的な影響力が目立った時代。
新興芸術派 =プロレタリア文学に対抗して集まった作家たち。
井伏鱒二= ユーモアある作風の新興芸術派。代表作『山椒魚』、『黒い雨』。
梶井基次郎=鋭敏な感受性から生まれた作品。代表作『檸檬』。


新心理主義 =西欧文学の心理主義の影響を受けた作家。
堀辰雄= 清新な文体による心理描写。代表作『風立ちぬ』。

昭和十年代の文学
中島敦=深い教養に支えられた作風。芥川龍之介との共通点も多い。代表作『山月記』、『李陵』。

戦後の作家
 太宰治:『走れメロス』『人間失格』
 坂口安吾:『堕落論』
 三島由紀夫:『金閣寺』
 安部公房:『砂の女』
 大江健三郎:『死者の奢り』、『飼育』。 ノーベル文学賞作家。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?