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高校生向け短期集中日本文学史#2 (明治時代末期〜大正時代初期の流れ) 全5回

文学史は地味にながら意外と定期テストで出題されて特典源になることも多いです。そのような文学史について素早く勉強をする全5回のシリーズ記事です。

明治時代末期から大正時代初期の文学は、既に台頭していた自然主義を批判する反自然主義の立場を取る人々によって展開された。反自然主義の立場の人々は特に共通基盤を持つわけではないが、自然主義とは異なる立場を取ろうとした点で共通しており、三つの立場が存在する。
①夏目漱石や②森鴎外が代表的な作家である高踏派・余裕派は、留学経験に基づき西洋文化の教養を踏まえて、倫理的で知性的な個人主義に徹していた。なお、高踏派・余裕派という二つの派閥が並列しているが、これは差異が顕著ではないために二つの派閥を分断するのが難しいことや、夏目漱石が二つの派閥の両方の特徴を持っていることなどが主な要因と言える。

二つ目の立場は耽美派である。耽美派は感覚や感情の自由な流動化を求め、芸術至上主義の立場で刺激と享楽の中に自我の解決を求めようとする立場である。芸術至上主義は西洋で流行していた唯美主義と呼応する現象ではあるが、必ずしも同質の現象として捉えることは出来ないのは要注意の点である。代表的な作家には( Ⅰ )や③谷崎潤一郎がいる。耽美派の重要な雑誌として( Ⅰ )が主宰した『三田文学』がある。なお、その他の耽美派の作家としては佐藤春夫がいる。

三つ目の立場は白樺派である。白樺派はその名が示すように、雑誌『白樺』を拠点として活躍した作家たちのことを指す。『白樺』は( Ⅱ )の学生が中心となっているため、品の良いお坊ちゃまの文学という批判もすることが出来るが、それ故に理想主義的な人道主義に基づいて、個性の尊重と自由とを強く主張した点が特徴と言える。代表的な作家には、『白樺』を創刊した④武者小路実篤、『城の崎にて』や『暗夜行路』で知られる( Ⅲ )、『カインの末裔』や『生まれ出る悩み』などで知られる⑤有島武郎などがいる。

問一 傍線部①夏目漱石の後期三部作に該当しない作品はどれか記号で答えなさい。
ア『彼岸過迄』 イ『門』 ウ『こころ』 エ『行人』

問二 傍線部②森鴎外の反自然主義の作品として正しくないものはどれか選びなさい。なお、その作品はドイツ留学生の太田豊太郎が自我に目覚めてエリスとの恋に陥り、立身出世か恋かの選択に迫られて苦悩の末、エリスを残して帰国する話である。
ア『舞姫』 イ『ヰタ・セクスアリス』 ウ『青年』 エ『阿部一族』 オ『高瀬舟』

問三 傍線部③について、次の中で谷崎潤一郎の作品として正しいものを選びなさい。
ア『痴人の愛』 イ『三四郎』 ウ『金色夜叉』 エ『高野聖』 オ『破戒』

問四 傍線部④と⑤の作者について、それぞれの読み方を答えなさい。

問五 空所Ⅰ~Ⅲを次の選択肢で埋めなさい。
ア 早稲田 イ 慶應 ウ 東大 エ 学習院 オ 永井荷風 カ 志賀直哉 キ 葛西善蔵 ク 菊池寛 ケ 広津柳浪


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解答・解説

問一 イ 

夏目漱石の作品は、修善寺の大患を前後として、前期三部作(『三四郎』、『それから』、『門』)、後期三部作(『彼岸過迄』、『行人』、『こころ』)があり、それらは高校生が覚えたい作品となっている。特に後期の作品は生死の境目を彷徨った影響もあり、エゴと戦う人生をテーマにしている。また、未完の作品ではあるが『明暗』では漱石が到達した「則天去私」の思想を表現しようとした。

問二 ア

医学界でも有名人でありながら作家として活躍した人物。ただし、今回の問題になっている『舞姫』や、『文づかい』、『うたかたの記』などのドイツ土産三部作といった自作の作品も有名だが、どちらかと言えば翻訳作品が多く、その点は鷗外自身も悩みとして抱えており、短編の「空車」では自身を大きな荷車に仮託してその虚しさを描き出している。

問三 ア

イ夏目漱石 ウ尾崎紅葉 エ泉鏡花 オ島崎藤村の作品である。どれも有名なので押さえておきたい。

問四 むしゃのこうじさねあつ/ありしまたけお

読みが難しい作家代表の二人。作品も大事なのでしっかり押さえておきたいところ。


問五 Ⅰ オ永井荷風 Ⅱ エ学習院 Ⅲ カ志賀直哉

永井荷風は三田文学、すなわち慶應大学関係者を中心として派閥である耽美派の代表、武者小路実篤は白樺、すなわち学習院系の白樺派の代表、そして短編作品の多さから小説の神様と呼ばれる志賀直哉と大事な要素を空欄とした問題。なお、どの大学を中心とする文学派閥かを念頭に置くと作品の雰囲気を読み解くヒントになることもあるので、地味に大事。

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