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Switchの本当にすごいのはジョイコンのほうである

Nintendo Switchは大人気ゲームハードだ。

これ、別にPS5がダメなハードというわけじゃなくて、しかし品薄や転売、それとPCとの競争で苦戦を強いられている感はある。

PS5が振るわない結果としてSwitchがゲーム業界を背負っている感じになっているのも事実だとは思うが、
それ以前にそもそも「ゲーム業界におけるSwitchの立ち位置が、業界を支える屋台骨になっている」という事実があることを語っておく必要があると思う、

なぜSwitchがゲーム業界を支えているのか?

それは「Switchの本当にすごいのは本体ではなくジョイコンだから」である。

それがどういうことなのか、これから詳しく説明しようと思う。読んでくれると幸いだ。

任天堂のコントローラーはすごい

これ、よくよく考えてみると当たり前の話なのだが、Switchを据え置き機としてみた場合、wiiとwiiUに続くゲーム機になる。そして、どちらも独自のコントローラーによるゲーム体験を提供している。

任天堂(の故•岩田社長)はDSやwiiの頃から、「ゲーム人口の拡大」と銘打って、これまでゲームをやらなかった層にゲームをプレイしてもらうために、斬新な操作性を取り入れた、ライトなゲームを作ってきた。
そのため、特にコントローラーをはじめとしたインターフェース(入出力装置のこと)にこだわって、新しいゲーム体験を提供するために尽力してきたのは間違いない。
その結果生まれたのが2画面&タッチパネルであり、wiiリモコンであり、裸眼立体視であり、wiiUゲームパッドなのである。
忘れがちだが、30年近い昔にVRHMDを作ろうとしてみたり、3通りの持ち方ができる大きなコントローラーを作ってみたりしている会社だ。任天堂のコントローラーへの情熱には並々ならぬものがあると言える。

そこでジョイコンである。
ジョイコンの最大の特徴といえば、左右が分割されていることだが、他にも様々な機能がある。
既に多くのゲームコントローラーに搭載されているジャイロ/加速度センサーはもちろん、触感まで感じられるHD振動に、赤外線で動きを捉えられるモーションIRカメラが搭載されている。

…と、ここまでは任天堂公式HPを見ればわかること。

というか、それより前に出たdualshock4(PS4のコントローラー)も高機能で、サウンド入出力やらタッチパネルが付いている。機能のわかりやすさや有用性ならこちらも負けていない。
というか、どうにもジョイコンの機能はこれに比べると地味である。
左右分割とHD振動が目玉で、モーションIRは多くの人が使い道を知らないと思う。
しかしそれでも言わせてもらいたい。
Switchの本当にすごいのはジョイコンなのである。

Switch本体は、普通の平凡なゲーム機

落ち着いて考えてもらうと、

Nintendo Switch本体は、外部出力が手軽なだけのただの携帯できるゲーム機でしかない。

これ、別にSwitchをdisっているわけではなくて、
むしろ最大級の賛辞である。

ジョイコンが素晴らしいハードウェアなのは、
まさにこの「Switch本体が無難なゲーム機」だからこそなのだ。

そしてこれこそがSwitchの成功の本質であり、そして現在Switchがゲーム業界の屋台骨となっている要因のひとつだと思う。

どういうことなのか。

それを知るには、15年ほど昔に遡る必要がある。

ゲーム業界の分断

「ゲーム人口の拡大」を謳ってDSやWiiを発売した任天堂。
斬新なインターフェースを引っ提げた(そして価格やゲーム体験のためにある程度性能を妥協した)ゲーム機を出すことで、新規層を取り込むこと自体には成功したが、しかし彼らをコアゲーマーに育成する手段がなかった、というのもまた事実だったのだ。

2000年代の家庭用ゲームソフトは、FFに代表される大作RPGやモンスターハンターシリーズなどのキラータイトルの多くはPS2やPS3に供給され、任天堂ハードは自社タイトルやファミリー•ライト層向けのゲームしか売れない、という状況になっていた。
これはやはり任天堂ハードが性能で少し劣っていたこと、そして独特の操作を伴う任天堂ハードは過去作の流れを汲むシリーズタイトルでは扱いにくかったという事情がある。
加えて「脳トレ」ブームなどで新規層を取り込んだ任天堂機が、逆にそのせいで「子供やライト層向け」のイメージを持たれてしまったというのもある。そのため一人でじっくりやり込むタイプのゲームがあまり発売されず、その結果一人でじっくりやり込むゲーマーが育たなかったのである。
(一応言っておくとMH3はwiiで、DQ9はDSで発売されたし、MH4以降は3DSで展開されるなど任天堂ハードが全くサードに恵まれなかったわけではない)

そして追い討ちをかけるように、2010年あたりからスマートフォンが普及し、カジュアルにゲームを楽しむ層はそちらに流れていくようになった。ちょうどそのあたりで発売された3DSは、常にスマホとの戦いを強いられることになる。
スマホは物理ボタンがほぼなく操作性に関してはゲーム機の方が上回っていたこと、価格面でスマホより有利だったこと、ポケモンやモンハン、妖怪ウォッチといったキラータイトルが出続けたことで3DSはその地位を保ったが、しかし携帯ゲーム機という括り自体に翳りが見えていたことは間違いない。

一方のPS3は、こちらはこちらでガチなゲーマー御用達ハードとなっており、価格面のハンデもあったため、ライトゲーマーが手を出しにくい環境になっていた。新規が参入しにくいこちらも先細りが見えていたのである。

wiiを中心としたファミリー層とPlayStationを中心としたゲーマー層の分断、そして先細り。

このままではゲーム業界全体がだめになってしまう。

そこで任天堂は、どうにか「ファミリー層を取り込みつつ、取り込んだプレイヤーをゲーマーに育成できる環境」を模索することになる。

みんなで楽しく、ひとりでじっくり遊べるゲーム機を求めて

そして誕生したのがwiiUだ。みんなでリビングでプレイしつつ、ひとりでゲームパッドを使ってじっくり遊ぶこともできる、というコンセプトだったが、
しかし結果は振るわなかった。
ゲームパッドはなんだかんだ言ってデカくて遊びづらいし、本体から大きく離すこともできない。
そして、やはり、独特すぎた。インターフェースが違いすぎて、他ハードで出たゲームを移植しにくいのだ。wiiの時からあったこの問題を、wiiUはそのまま引き継いでしまった。

そして任天堂は気づいた。

ゲームをしっかりじっくり楽しめるハードとは、
結局、PSやGCまでのハードのような、普通のコントローラーで遊ぶ普通のゲーム機なのだ
、ということに。

リモコン操作もゲームパッドも楽しいが、しかし独特すぎて普通のゲームが遊びづらいし、開発側も作りづらい。
普通のゲームを普通に楽しむには、普通のハード、普通のコントローラーが一番なのである。

だからこそSwitchは普通のゲーム機になった。

しかしもちろん、ただの普通のゲーム機では面白くない。というか、それでは性能で他ハードと競争するかつてのゲーム機戦争に回帰するだけで、新規層の獲得という目的が果たせない。

では、どうしたのか。

夢が詰まった小さなジョイコン

Switchを、普通の無難なゲーム機のまま、しかしこれまでゲームをやらなかった層にとって魅力的なものにする。この一見矛盾した問題を解決するために任天堂が出した解答、それこそが、

ジョイコンに独自性を集約させること

なのである。

ジョイコンが素晴らしいコントローラーだからこそ、Switch本体が無難なゲーム機でいることを可能にしたと言ってもいい。

ジョイコンは左右セットで使うことも、分割して2つのコントローラーとして使うこともできる。これは最初から(ファミコンのように)コントローラーが2つ付いているのと同じで、これだけでも多人数プレイの敷居がグッと下がるのだが、
あの小さなコントローラーに様々な機能を詰め込むことで、トラッカーといった拡張デバイスとしての用途を十二分に果たすことも可能にした。
ARMSやフィットボクシング、リングフィットアドベンチャーを見ればわかるだろう。
ジョイコンが小さくてシンプルな形状で、しかも左右セットだからこそできることだ。
いまいち知名度の低いモーションIRカメラも、活用されているところをよく知らない、という人はこの記事を見てほしい。
鳥肌もの必須である。
また、もちろん、リングフィットで脈拍を測る機能も、モーションIRカメラが使われている。
それに、dualshock4のようにスピーカーを搭載しなくても、HD振動で音楽を鳴らすことだってできる。
分離すると細長い形になるから、センサを使って疑似的なポインタにもなる。
そもそもコントローラーにファームウェアと記録領域があって、RGB値を内部で持っててゲーム中にそれが反映されたり、コントローラー単体で機能したり(リングフィットのながらモード)するってなんなんだよ。マジで。

ジョイコン、すごいでしょ?

しかもこれだけの可能性を秘めていながら、「普通にフルコントローラーとして使える」ことで、Switch本体を普通のゲーム機として遊べるようにしている。ハードとしての独自性が、標準の、癖のないゲーム機としての特性をほとんど殺していない。

そして、本記事のタイトルに「Nintendo Switchの本当にすごいのはジョイコンである」と書き、「本体がすごいのではない」と先述した真意は、当然、ここまで読めばお分かりだと思うが、
普通のゲームを普通に楽しむために、
Switch本体が無難で普通なハードウェアになっていること自体が素晴らしいこと、ということでもあるのだ。

その証拠に、Switchはwii系列と比べて圧倒的にサードパーティ製のゲームが増えた。これは、Switch本体が無難で癖のないハードだからこそ可能にしたのだ。
PS4にも劣る本体性能が足を引っ張り、AAAタイトルの一部こそSwitchで発売されないこともあるものの、ゲームの楽しさは処理能力だけに左右されない。さほど高性能を要求しないインディーゲームの参入障壁は驚くほど下がったし、モンハンライズのようなサードのキラータイトルも普通に発売されている。

そしてジョイコンが素晴らしい理由はもう一つある。それは、いうまでもないが、
Switchの最大の特徴でもある、
据え置き機と携帯機の融合を実現したこと。

Nintendo Switchの取り回しの良さはすごい。

据え置き機を謳うにはあまりに小さな筐体、爆速でスリープから復帰するホーム画面。
そしてその取り回しの良さは、簡単に取り外し可能なジョイコンの存在をもって完成するのである。

Switchとジョイコンが成し遂げたこと

携帯機としてSwitchで遊ぶこと。それは、いつでも手軽に、ゲームを遊ぶこと。持ち寄って友達と遊ぶこと。そしてそれは、スマホではできないワンランク上のゲーム体験を得ること。

据え置き機としてSwitchで遊ぶこと、それは腰を据えてじっくりゲームを遊ぶこと。誰かの家に集まってみんなで遊ぶこと。そしてそれは、携帯機では得られないワンランク上のゲーム体験を得ること。

そう、Switchは、
ジョイコンの独自機能と、携帯機としての魅力で新規層を開拓し、
普通のゲームコントローラーとしてのジョイコンの安定性と、据え置き機としてのリッチなゲーム体験で開拓した新規層をゲーマーとしてしっかり育成する、
まさに「非ゲーマーとゲーマーの橋渡し」としての立ち位置を確立したのである。

そしてその立役者こそがジョイコンなのだ。

もしあなたがかつてゲームをあまりやらない層で、ジョイコンを活かしたゲームや携帯機としての取り回しの良さに惹かれSwitchを買い、そのうちプロコンが欲しくなったとしたら、それはSwitchにゲーマーに育成させられたということだ。Switchが立派に役目を果たし、任天堂の策略にハマったということだ。

冒頭のツイートの引用に戻るが、自分としては、別にPS5が死んでいなかったとしても、Switchがこのカジュアルスマホゲー層とガチゲーマー層の間、ライトゲーマー層とも言える人々にばっちり適合したハードという立ち位置である限り、ゲーム業界の屋台骨であり続けると思う。
もちろん、その背後にPS5やゲーミングPCといったハイエンド機が居て、Switchが育成したゲーマーの最終的な受け皿になっていることも無視してはいけない。彼らはSwitchだけで飽きることなく、最新鋭のグラフィックで豊かなゲームを遊ぶことができる。どちらが欠けても成り立たないということは、胸に留めておきたい。

ゲーム機としての完成形

今思い返すと、
開発コード「NX」として噂されてきたゲームがNintendo Switchとして正式に発表されたとき、人々の反応は、予想に反して冷ややかなものだった。

携帯機になるだけの普通の据え置き機、というSwitchのコンセプトはインパクトが薄かったのだ。

スマホゲーム全盛の時代、携帯機として持ち運べるというのは大したアドバンテージではない、とか、そもそもゲーム専用機というのが時代遅れになってきている、とかいう意見があった。

しかし結果はご存じのとおりである。
一見地味だが、ゲーム業界の欠けていたピースにバシッとハマるコンセプトを持つSwitchを、実際にゲーム業界の柱としての存在にした素晴らしいハードウェア、それがジョイコンだ。

Switch本体自体は、もう5年目選手なのもあり、性能で遅れを取ってきた感があるのと、ユーティリティ周りにまだ課題を残している(Bluetoothオーディオや、30秒しかない録画バッファなど)ものの、ジョイコンという最高の相棒のお陰で百点満点に近いハードウェアに仕上がっている。ライト層向けゲーム機として、ほぼ完璧な解答になっていると思う。

そのため、個人的には、任天堂には全く違う次世代ゲーム機を出すのではなく、Switchの、特にジョイコンの正統進化という方向性で今後の開発を進めてくれた方がいいと思っている。
しかしその一方で、任天堂だからこそ、Switchの完成度を圧倒的に上回る、思いもよらない新たな「解答」を我々の前に叩きつけてくるのかもしれないという期待もないといえば嘘だ。

どちらにしても、嬉しいことには変わりないのだが。

まとめ:ジョイコンはすごい

何度でもいうが、ジョイコンはすごい。
小さなコントローラーに、様々な機能を詰め込んだこと。2つあって、2人で使えること。携帯機と据え置き機のシームレスな切り替えを実現したこと。癖のないゲーム機としての体験をほとんど損なっていないこと。

ジョイコンは本当に素晴らしいハードウェアコントローラーだ。

だから、頼むから、本当に頼むから、スティックやボタンがヘタりやすいのだけは、どうにか改善してほしい、任天堂。お願いだ。

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