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虫も殺さぬスリランカ人-マサラチャイの修行の中で-

スリランカの高原地帯、バンダラウェラは天国のような気候と景色。
観光客に人気の高いヌワラエリヤやエッラと同じく、年間を通して爽やかな気候で、その日照時間と雨量は紅茶の栽培に最適であり、あちこちに優しい緑色をした茶畑が広がる。

そんなバンダラウェラの山の上に、スリランカ人の友人の家があるので、旅の道中で親しくなったMちゃんと一緒に初訪問した。

すごく古い家だと聞いていたので正直、あまり期待していなかったのだけれど、着いてびっくり!とっても素敵!

家の中もアンティークなインテリアでとってもおしゃれ

家の前は大きなお庭になっているのだけれど、その向こうもずっと緑の景色が続いていて一瞬で心も身体もクリーンになりそうな清々しさ。

ふと何かの視線を感じて目を上げたら、屋根の向こうに可愛い小坊主たちが。どうやら裏はお寺らしい。

3人の小坊主

さて、今回の訪問に際して友人は、一緒にマサラチャイを作る準備をしていてくれた。
他でもない、彼は私に最初にチャイ用マサラ(スパイスのブレンド)のレシピを教えてくれた人。私にとってのチャイの師匠なのだ。

まず取り出したのは、その日に搾ったばかりのミルク!
これを消毒のために煮沸するところからスタート。

独り暮らしなのにこんなにすごい量の牛乳どうするんだろう?とも思った

彼のマサラチャイのレシピは水を使わず、ミルクのみで作る。
そこにシナモン、クローブ、カルダモン、ブラックペッパー、ナツメグ、ジンジャー、ターメリックをマサラとして使う。

すると予想していた通り、師匠から「ミナのマサラのレシピでやってみろ」と。
こんな量のミルクにどうすりゃいいんだと思いつつも、スパイスと紅茶を投入していく。

広がるスパイスティーの良い香りと、搾りたてミルクの甘い香り。
ますますバンダラウェラの天国さ加減が上昇していく。

すると師匠が、「ここからが重要だ、4分計ってくれ。しっかりと紅茶とスパイスの香りが引き出されて、且つ煮込み過ぎて”料理”になってしまわないためには弱火できっかり4分なんだ。」と指示を飛ばしつつ、鍋の前のポジションを取る。
私たち弟子は一歩下がって見守る。
Mちゃんが緊張の面持ちで、スマホのタイマーを見守りながら完成の時を待つ。

しかし3分を経過するところで、思い切り吹きこぼれてガス台はチャイまみれに!
師匠…
お手伝いに来てくれていた師匠のお友達が、手早く鍋を火から降ろしてガス台も綺麗にしてくれた。
師匠……

結局、師匠のお友達がチャイを仕上げる

大騒ぎしながらも、できあがったチャイは濃厚でとっても美味しかった。
リビングで師匠、Mちゃん、私の3人で日本のこと、スリランカのこと、社会のこと、将来のこと、さまざまなことをチャイを飲みながら暗くなるまで話した。

しかしお喋りを楽しみつつも、Mちゃんと私は何か所か蚊に刺されたので、殺虫剤はないか訊いてみると、ないとのこと。

スリランカの人はあまり刺されないようだなとは思っていたけど、こんなに蚊が多い国で殺虫剤を持っていないのにはびっくり。
だからベッドにも蚊帳を張るんだな。
(一応、スーパーに殺虫剤は売っているが、使っていない人が多そう)

なんて感心しつつも、私たちは痒い!
Mちゃんが、ワンプッシュ式のルーム用殺虫剤をバッグに入れてきたことを思い出し、使おうとしたら「虫が死ぬ薬は人間も吸わない方が良いからやめよう。蚊もお腹いっぱいになったらもう刺さないよ。」と師匠。

そう言われてみたら…なるほどその通りかもしれない。

スリランカに来てから感じていたのだけれど、本当にみんな虫を殺さない。
「蚊がいやなら雨の日と夕方に表に出ないようにすれば良い」とか「ハエや蜂は窓を開けていれば出ていくよ」と何度聞いたことか。

コバエも蚊もクモも、家の中で見つけたら当たり前のように容赦なく殺していたけれど、命まで奪う必要って本当はなかったのでは。と頭をこずかれたようなショックを感じてしまった。

だからと言って、これからも日本で部屋の中に蚊がいたら殺虫剤を相変わらず撒いてしまうのだろうけれど、そうしないで良い方法って実はあるよね。窓辺に虫よけを貼るとかさ。

自分の命に対する感覚が、スリランカの人に比べてどれだけ麻痺しているのかに気が付いてしまったチャイの夕べだった。

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