いきなりセクシー - ヒゲ面の天使 -
スリランカの高原地帯、バンダラウェラの友人宅で過ごした翌日、彼の息子に会いに単身コロンボへ。
21歳になるその息子Jくんとは、前回スリランカへ来たときに何度か会っており、すっかり仲良くなった。
今回の滞在をインスタグラムで告知したところ、Jくんから「ミナがスリランカに来たら会いたい!」と連絡をもらっていたので、もちろん会いに行くことにした。
話は逸れるが、コロンボというこの大都市は圧倒的に人がヤバい。タカリ方が尋常じゃないのだ。
道行く、身なりの良いジェントルマン風の人でも、「どこから来たの?何日滞在するの?」「近くにおいしいレストランがあるよ」「今日は近くの寺院のお祭り(嘘)だから、絶対に行くべきだ」「現地価格の宝石(嘘)のお店に連れていってあげる」とか何とか、隙あらば声を掛けてくる。
特に鬱陶しいのがトゥクトゥクドライバーたち。狂ったように鳴くジャングルの鳥たちよりもうるさい。
一歩ホテルを出ると、四方八方から「トゥクトゥク?」「コニチワー」と絶え間なく声を浴びせてくる。
無視していると、語気粗く「ヘイ!」と怒鳴る輩あり、パンパン!となぜか手を叩いて振り向かせようとする輩あり。
しつこさと失礼さにイライラが募り、話しかけてくる男たち(女性は声をかけてこない)には「I’m from here!(私はコロンボの住人だよ!)」とこちらも嘘で応戦し、あとは意味なく舌打ちしながら歩くことにした。
この方法は効果があるので、お勧めです。
さて、話を戻してJくんだが、歌手活動をしつつ、デジタルアートデザイナーの一面も持つマルチな若者。
スリランカ人では珍しく、髪の毛を青やピンクや金髪に染め、Gジャンにブーツがトレードマーク。熱帯気候に抗う若さと美意識の高さが微笑ましい。
さらに濃い顔にふさふさとヒゲを生やし、スリムなボディという風体は、普通ではないオーラを醸し出している。
しかし、その人柄はとても礼儀正しく、常に笑顔でやんちゃな男の子。大きな目はいつもキラキラと輝いていて、私にとって彼は天使のような癒し効果を持っている。
再会を喜び合って、ひたすらコロンボの街を歩き回り、疲れたところでスリランカカレーを食べに行くことにした。
「ミナはカレーを手で食べれるの?」ときかれたので、そう言えばスリランカの人は手で食事をするけれど、旅行者にはいつもスプーンやフォークが提供されるから手で食べたことがなかったな、と気が付いた。
Jくんいわく、「カレーは手で食べると何倍もおいしいよ!」とのことなので、私も挑戦してみることに。
しかし、パラパラとしたごはんと汁っぽいスリランカのカレーは、すぐに指の間からこぼれてしまって、なかなかうまく食べることができない。
「見てて。こうやってカレーを載せた指先を自分に向けて、舌を出してから食べるんだよ。」と、Jくんがお手本を見せてくれた。
それは私にとって息子のようにかわいいJくんが、思いがけずとっても魅力的に見えた瞬間だった。
意図しないセクシーさって、すごい威力。
あからさまな色っぽさを演出されても、私のように激しく人生経験を重ねると、ほぼなんの刺激も感じなくなってしまう。ん?ハエがとまったのかな?という程度の感覚。
でも、その時のJくんには完全に撃ち抜かれた。
彼の奇抜なファッションにしても、目の輝きにしても、純粋さが表現されてしまっているだけで、相手を操作しようとしているものではない。
だからこの子のことが好きなんだな、と思った。
何かしら搾取しようと笑顔で近づいてくる人たちは、なんとなく下卑て見える。どこにでも、そう言う人は溢れているからもう慣れたけど、関わるとこちらの心も少し汚されるようなところがあり、淀んだものを分かち合ってしまう。
でも、ピュアな眼差しや言動は、お互いを浄化するほどの力を持つし、少し意外な瞬間とセットになると、とてつもなく魅力的なものになるようだ。
誰でも魅力があると思われたいし、そのために効果的な服やしぐさを身に着けようと情報収集したりもするけれど、自分が好きなものをキラキラしながら追い求めて輝くことが、何よりもセクシーで人を惹きつけるのかもしれない。