きちゅえん

歯抜けだらけの口内を蔓延るニコチンの束が、昨日の思い出を消し去ってゆく。煙が外の空気に紛れて消えていく姿を僕は鏡の前で視ている。部屋の中にはニコチン積乱雲が作られ、僕の体を酸性雨のように侵していく。鏡のダクトから現れるニコチン雲は、僕の皮膚を水浸しにしていく。
君は、どこにいくのか。

鏡の前で視ている僕を見ている僕は、ニコ中患者と化していた。
瞳はニコチン雲の行く先を辿っていき、次第に自分の鼻に向かっていった。鼻から吸入されたニコチン雲は、周囲の清浄な空気とともに痰を絡ませる。僕にはこれしか吸えないのかと思いながら、痰を口元から垂らしていく。吐瀉された物からは、酸化鉄の色の混じったどす黒い色をしていた。
もう一度、鏡を視ようとした僕は煙が登る様子を観ながら、一ニコチンをついた。

それでもダクトに消えていく僕の息は、最後まで見えずに行ってしまった。

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