原始の野球

2155年3月25日


僕の住むこの星はとても過ごしやすいところです。水がたくさんあって、とても美味しいんです。色んな所から湧き水が出ます。噴水みたいです。


あとですね。今住んでる所は野球というスポーツが流行っているんです。わかりますかね。野球です。大野くんの野に、野球の球です。僕はあまりよくわからないんですけど、みんなやってます。みんなが言うには、ボールをバットに当てた時の爽快感がとても気持ちイイみたいです。やってるみんなの姿はとても楽しそうで、すごく羨ましいです。僕の身体はもう動かないので。


えっ? 何でこうなったのかって?


さぁ、僕にもわからないですね。神様が言ったんじゃないでしょうか?

「この世界はもう終わりかな」 って。

まぁ、妄想の類なんですけどね。多分、皆も感じ始めてると思いますよ。なんでこうなったのか。それは皆が楽しくやってた事がきっかけで、起きてしまったことなんですから。

僕も、皆も、大人の人たちだって、まさかとは思ってたはずです。そりゃ、まさかあんな些細なことが、こんな大事にまで発展するなんて分かるわけないですよね。たかがボールひとつであんなになるなんて誰も分かりませんよ。


2153年7月20日


セミが鳴いている。

炎天下の日光が刺さり続ける中に幼い少年たちの姿があった。少年たちは野球をしているようだ。無地のシャツをびしょ濡れにしながら楽しそうに野球をしている。


「ケンター。あと1点で罰ゲームだからなー!」

少年たちは、野球の勝負で賭け事をしているようだ。

「負けんなよーケンタ!終わりなんて俺嫌だからね!!」

「そうだ!そうだ!」

野球も終盤と言ったところか、バッターボックスに立つケンタという少年も少し手が震え始めている。

「くそっ!こんなことで負けてたまるかーー」

見下した顔をしているピッチャーが投げたボールは、奮起した少年の目の前を通り過ぎる。

「すとらいくー」

頼りない言葉がケンタの耳に届く。

「声がちっせぇぞ!最後くらい大きな声だしたらどうよ!」

外野から審判に向けてヤジが飛び、小柄な少年は少し縮こまりつつも、ピッチャーに視線を戻す。

「これが最後。これが最後。これが最後。」

自らに暗示をかけるように、ケンタは呪文を唱え続ける。

またもや、見下したような顔したピッチャーが、ボールを投げてきた。

「これで最後だっ!」

ケンタの腕を伝って移動した遠心力は、バットに伝わり、ケンタの斜め下を通り過ぎようとするボールに直撃する。

「カキーンッ!!!」

ボールは空高く飛んで行った。誰が見ても場外ホームランだった。


2154年9月16日


その日、人類は騒然とした。


「2155年4月1日、今住んでいるこの惑星は滅びます」


テレビに出演した研究者によれば

「現在使用されているものはこの惑星を一旦出ると、崩壊する仕様になっているのです。惑星の外はスペースデブリでいっぱいなので、これ以上宇宙にゴミを生み出さないようにするためにこの仕様になっています。詳しく言うなら、宇宙に出たゴミは一気にニュートリノまで崩壊していくわけです。そういうわけなんですが、何の因果かこの惑星を飛び出した、あるボールはニュートリノまで戻らないまま地球までたどり着いてしまったんですよね。宇宙空間を全速力で運動しているボールはまさに隕石同然です。ですから地球が爆発しちゃったわけです。そう爆発しちゃったんですよ。不思議なことに。」


2155年3月30日


ある少年が飛ばした1つのボールは地球爆発まで起こして、今人類の危機は目の前まで来ている。


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