多様性の見える化、「女性向け研修」が不評な理由
女性社員を集めて行う社内研修は不評だ。なぜ女性だけ集められるのか?男性と互角に仕事をしているのに、女性だというだけで私に何が足りなくてトレーニングが必要と言いたいのか?女性だけと言われると、怒りの感情が湧き上がるのだ。その背後には、特別扱いせずに普通の男性と対等に扱って欲しいというニーズがある。しかし、女性にとって「普通の男性と対等に扱って欲しい」は、「普通の男性と同じように働きたい」ではない。それには二つ理由がある。
一つめの理由は、日本企業の中で「普通の男性」の平均像は、中年男性で、家事育児は主に配偶者が分担する家父長制モデルであることだ。女性社員は、家父長制モデルの中で女性に期待される役割を果たしつつ、会社で男性と同じように長時間働くことはダブルワークであり、フェアではないし現実的ではないと感じている。
二つめの理由は、年功序列・終身雇用を前提にした会社への帰属を良しとし、飲み会・ゴルフを含め会社に120%の時間とエネルギーを割くことで人生を楽しみ自己実現を図るモデルは、時代遅れであるからだ。女性社員にとって、今から目指すありたい姿ではない。
その結果、女性社員から出てくるリクエストは「多様な働き方をしているロールモデルの話を聞きたい」となる。どんな働き方を目指して生きていこうか、自分にあった道を探し続ける姿は、前向きで凛々しい。
ところが、男性の経営陣は、「普通の男性と対等に扱って欲しい」のであれば、「普通の男性と同じように働いてほしい」と考える傾向にある。女性管理職を増やすことは正しい方向だと同意しつつ、その前提として「普通の男性」と同じであることを求める。なぜなら、仕事の実績とは「普通の男性」のように長時間働いて初めて得られるものである、という思い込みが存在する。
同じような話で、新卒一括採用中心企業は、中途採用社員の「プロパー社員」化を望んでいるように見える。例えば、私は最近「あなたは中途採用で、30年我が社で働いているプロパー社員に比べて〇〇の経験が足りないから、経験を積むためにこの仕事をやってみなさい」と言われた。大きな組織の統括ポジションだったけど、その領域は望んでいないと事前に何度も人事部とコミュニケーションしていた、まさにそのポジションだった。会社があなたに経験させて育てたいという証拠なので、その重要なポジションを任せてくれるならやってみればいいじゃない、という声が聞こえてくるようだった。何かが違うなあという感じ。「プロパー社員と対等に扱って欲しい」けれど、「プロパー社員と同じようになりたい」わけではないのだ。私にはプロパー社員が持っているスキルがないかもしれないが、逆に彼らにない経験とスキルを持っている。それが多様性人材を採用する価値だと思う。
「みんな違って、みんないい」多様性社会実現に向けて、何ができるだろう。幸せに暮らし、経済・社会・環境に貢献して生きていく、とてもシンプルな願いだけど、とても難しい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?